第2話 よろず屋開店危機!?

あの助けた女性の言うとおり、シンはギルドと呼ばれる場所を訪れる。

 そこはとても賑わっていた。

 目の前に巨大な噴水がある広場。そこを取り囲むようにいくつもの露店が並び、特徴のある人たちが店先で何やら会話をしている。

 居る人は様々だ。腰に鞘に収めた剣を下げている剣士風の男が露店で何やら石細工を購入し、噴水奥への道へと消えていく。

 ドレスに身を包んだ気品高いマダムが店主と井戸端会議をしていたり。

 時折、噴水の周りを走りまわる子どもたち。

 平和。と一口に言えば充分の光景が広がっている。あの暴漢が嘘みたいである。

 ふと少し目を遠くに向けると、噴水の奥の道から続く先にある巨大な門。

 あの門は一体何なのだろうか、気になる所ではある。


「うんうん。平和だ。さっすがは、神だな、うん」


 この世界に来る直前、神は言っていた。


【転生先、ようやく決まりました。いやはや、知り合いの神様がですね、ようやく空きができたと言ってたんです。これで君も晴れて新しい人生を歩めますね。ご安心してください!! ちゃんと節度を持てば平和な世界ですから、ハイ!!】


 これだけ平和な世界ならば、困っていると言っても先ほどの暴漢レベル。

 前世とそこまで相違ないので、簡単にこなす事が出来る。

 それにこの世界ではゆっくりと過ごしたい。前世では人助けの無茶が祟ってしまった。人助けをするのはいいが、もう無茶な事はしたくない。自分の出来る範囲で助けたい。

 そんな気持ちがある。

 それに状況を見るに、転生前に立てた目標は間違いではなかった。

【人々の受け皿 よろず屋を作り、ゆったりと人助けをしながら平和を享受しよう】

 という事だ。となれば、ギルドの何か窓口のような場所を探そう。

 きっとギルドに申請すれば、よろず屋を行う為に色々サポートしてくれるだろう。

 シンが辺りをキョロキョロとすると、ギルドの受付と呼ばれる場所を見つける。

 それはちょうど、噴水奥の道の脇。そこに見目麗しい女性が座っていた。


 年齢で言うなら20歳ほど。紅茶色の髪を二本に束ね、前に流している。

 書類を眺めるその姿は大人びていて、思わず目の前を通る男性が足を止めるほど。

 現に、今も彼女の顔を拝める為なのか、遠く離れた所で男たちが群がっている。

 それでも女性は気にせず、仕事をしているらしい。

 シンは足を進め、声を掛ける。


「すいません。ギルドで申請とかなんとかをやりたいんですけど、ここでいいですか?」

「あ、はい。ここで構いません。申請、というのは冒険者ですか? それともお店を出すとかそうした事でしょうか?」

「あ、お店です。よろず屋って言うんですけど……」


 声を掛けた瞬間に向けられた花の咲くような笑顔にドキリとするシン。

 女性はお待ち下さいと一言伝えてから、何やら光る文字の浮かんだ石版を手にする。


「お店を出す際、ギルドではその適正を確認させて頂きます。そうですね……よろず屋となると、所謂、何でも屋という事でしょうか? 極めて珍しい職種ですが……」

「そうです。オレ、人助けがモットーなんて。人を助けて暮らしたいんです」

「なるほど。とても素晴らしい事だと思います」


 ニコリと可憐な笑顔を浮かべる女性。

 シンは心が小躍りする感覚を覚えるが、すぐに女性の声で我に変える。


「それでは、この石版の上に手を置いて下さい。よろず屋の適正となると……何でも屋っと……そうですね、戦闘スキルのレベルが10前後。鑑定スキルのレベルも10前後ですか」

「れ、レベル……」


 まるでゲームのような世界であるが、所謂、力の指標。

 それだけの実力が無ければ出来ない、という事なのだろう、と推測する。

 シンは若干緊張しながらも、右手を差し出された石版の上に差し出す。

 石版の上に手を置いた瞬間、石版が青白く煌き、何やら文字が浮かび上がる。それはシンには読む事が出来ない幾何学なモノだったが、何やら女性は目を丸くした。


「……おかしいですね。もう一度、手のひらを離して、上に乗せてくれませんか?」

「あ、はい」


 シンは言われるがままに一度石版から手を離す。青白い光と文字は無くなり、再度手を石版の上に置く。同じように青白い光と文字が浮かび上がる。

 女性は再度、その文字羅列を眺めてから、顎に手を当てた。


「そ……測定不能? どうして? このラプラスで計れないものはないのに。すいません。貴方は何をしていましたか? 今まで」

「今までですか? 一日中、日が暮れるまで正拳突きをしてました」

「せ、正拳突き?」


 女性の戸惑った様子になったが、シンは気にせず言葉を続ける。


「日によっては数万回と拳を振り続けました。それを毎日です」

「……そう、ですか……。全く理解は出来ませんが……それが影響しているのかも……」


 女性は無理矢理納得した様子を見せ、シンに向き直る。


「分かりました。それ相応の力と心構えもあるみたいですし、ギルドとしてよろず屋は認めようと思います。それで――場所はどちらですか? 住居は? それにギルドに治めていただくお金も必要ですし……その辺りの状況はどうなっていますか?」

「……ゑ?」

「……もしかして、決まってないんですか?」

「あの……持ってないです」

「何をですか?」

「お金とか、家とか……」

「お引取り下さい」


 受付嬢のお姉さんにこれまたとてもとても美しい笑顔で言われた。

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