転生が遅れたので、修行してもよろしいか? ~異世界行って、よろず屋開いて、人助けゆったりライフします。〜

おしりこ

第1話 異世界最初の人助けはテンプレでした。

 黒木真――シンは転生者である。


 といっても、転生をする際に色々あった。


 前世で正義の味方【ニート】をやっていて、道行く人を助けていたのだが、たまたま車に轢かれそうになっていた女の子を助けると同時に命を落とした。


 それから死後の世界に行ったら、昨今の転生ブームとかなんとかで、転生できないって言われ、数百年待たされる事に。


 どんだけ転生したい人いるんだよ、とシンは思ったが、それは好都合だった。




 前世での反省を生かし、ある程度の強さを手に入れて、人助けをそれなりに行えるようにして、ゆったり暮らせば良くないか? と。




 目指せ、人助けゆったりライフ。




 そんな心を胸にシンは転生した。




    ◇






「やめて下さい!! 離して!!」


「おいおい、つれない事言うなよ、姉ちゃん~」


「俺たちと一緒に遊ぼうぜ、なぁ?」




 街から一本入った薄暗い路地裏に、一人の女性を取り囲むように三人の男が下卑た笑みを浮かべる。


 二人が取り囲み、一人の大男は女性の腕を掴んでいた。


 女性は顔に嫌悪感を張り付けたまま、腕を振り払おうと必死にもがく。




「だから、嫌だって言ってるんです!! 大声で叫びますよ?」


「おうおう、叫んでみろよ。別に声なんて聞こえなくなると思うけどなぁ?」




 大男は取り囲んでいる二人に目配せをすると、小さく頷き、懐から小さな道具を取り出す。


 その道具は何やら石の円盤。


 男が何やら呟くと、突如石の円盤が光り輝き、四人を囲うような見えない円が生まれる。




「なっ!? 魔道具!? 何をしたの!?」


「何、たまたまダンジョンで拾ったもんでよ、どうやら、これ、円の中の音は全て遮断されるみたいなんだよ。つまり、どういうことか、分かるよなぁ?」




 大男の汚い笑い声を聞き、女性の顔に絶望の色が浮かぶ。


 これでは大声を上げたって助けてもらえる保障は完全になくなった。


 女性の胸の中から希望という言葉が無くなり、絶望で埋め尽くされそうになったそのときだった。女性の耳に一人の青年の声が響く。




「あれ? 何してんの? おじさんたち」




 男たちの耳にも届いていたのだろう。青年へと視線を向ける。


 青年はじっと観察するように四人を見る。


 このままでは興が冷める。そう思ったのが、見守っていた一人の男が青年の前へと出る。




「おいおい、兄ちゃん。邪魔しないでくれよ。これから良い所なんだよぉ」


「ふぅん。そう。嫌がってるように見えるけど」


「嫌よ嫌よも好きのうちっていうだろ? だから、ここは何も見なかった事にして帰ってくれねぇかな?」




 男は青年に向け、睨みを飛ばすかのように言う。


 だが、青年は動じる事なく、右手を男の額の前に出し、中指の先を親指で抑える……所謂、デコピンの構えを取る。




「てい」




 刹那――男は見えない壁すらもぶち破り、一人の男と重なるように弾け飛ぶ。


 飛ばされた男は額に円形に窪んだ傷を晒し、気絶。だが、重なるように飛んだ男は青年に向け、叫んだ。




「何しやがんだ、てめぇ!!」


「てい、てい、てい、てい」




 青年は右手で何度も虚空をデコピンする。


 虚空を撃っているはずのデコピンは衝撃波だけが大男や男の身体を貫く。


 そう、彼はただデコピンを虚空に放ち、ソニックブームを放っている。


 見えないデコピンソニックブームによって、男たち三人は皆、その場に倒れ伏し、気絶する。青年は一つ息を吐き、驚きから、腰を落としている女性に手を差し伸べる。




「大丈夫ですか? こういう事ってどの世界でもある事なんですね」


「あ、ありがとう……ございます」


「いえいえ。困っている人を見かけたら助けるってのがモットーてやってますから!!」




 青年は右腕で力こぶを作り、はにかむ。


 女性は衣服について埃を払いながら、青年に向き直る。


 すると、青年は一枚の紙を取り出し、女性の前に差し出す。




「実は僕、こういう人なんです」


「は、はぁ……」




 先ほどから戸惑いばかりが先行しているが、彼女は青年の持つ小さな手作り感溢れる長方形の紙を受け取る。その紙には【名前 シン】【よろず屋 しんちゃん】と書かれていた。


 だが、女性は違和感に気づく。そう、これは名刺だ。


 良くギルドの中にあるお店でも、自己紹介の際に渡すことが多い。


 しかし、彼らにあって彼にないものがある。女性はシンに言う。




「あの……」


「はい?」


「このお店ってギルド公認ですか?」


「……ゑ?」


「基本的にこうしたお店はギルドの許可がないといけないんです。本来、こうした名刺にはギルドの刻印が刻まれるんですけど……」




 シンは焦った様子で汗をダラダラと流しながら、引き付いた笑みを浮かべる。




「――ギルドってどこにありますか?」

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