第01章 「仮想世界より」

episode-001 "From The Virtual World" - 01

 この狭い殻から抜け出したいと少女は感じていた。人通りが少ない道路の蝉しぐれを潜り抜け、少女は歩道を進む。並木の影に沿うように足を移動させながら。少女はつまらなそうに疑似太陽に照らし出されたアスファルトを強く蹴る。

「何をしているの」

 少女がふと顔をあげてみると、そこには麦わら帽子を被り長い髪をした雲中白鶴な顔が目の前に立っていた。少女よりも年下で、幼女という言葉が合致する外見である。

「感触を確かめているの」

 虚構の地面を何度も蹴り返し答える仮構の少女。

「可笑しいお姉ちゃんだね」

 幼女は無垢な顔つきで少女に答える。少女はおかしな人間に会ってしまったと強く思う。幼女はその意図を汲み取らず弾ける笑顔を崩さない。

「だって私は原住民だもん」

 赤裸々に悲しそうな表情を浮かべる少女。そのもの寂し気な顔を無視して幼女は少女の手を取りはしゃぎ始める。

「本当なの」

 目を輝かせてジャンプを繰り返す幼女に少女は困惑する。幼女は嬉しさのあまり乱舞し、風がなびく。

「おかしな子だね」

「おかしくないもん。あたしはおじいちゃんに会いに来たコモンな人間だもん」

 幼女は腰に手を付け、低身長ながら威張ろうと努力する。その初々しい姿に少女は少しながら表情をほころばせる。

「お姉ちゃん、ひどいよ」

「ごめんなさい。でも、微笑ましいなって思って」

 少女は幼女の素朴な動作の愛くるしさに心が朗らかになったようで、先ほどまでの陰鬱な表情は消し飛んでいた。往来する車を横目に幼女も笑い始める。

「それで、これからおじいちゃんの所へ行くのでしょう」

 ひとしきりに笑いあった後、少女は何処となく羨ましそうに幼女に告げる。幼女は言葉の意味を理解していなかったが、少女の不安そうな顔つきに心配を隠せない様子である。

「――あ。そうだ。お姉ちゃん。一緒におじいちゃんの所へ行こうよ」

 幼女は白色のワンピースに手を差し伸べる。少女は思いがけない彼女の行動に暫し躊躇するも、差し伸べられた光を手に取る。

「さぁ、行こう」

 欣喜雀躍する幼い女の子の後ろ姿に抱負を貰う少女の姿は、太陽のようである。

「あたし、やよいって言うんだよ。お姉ちゃんはなんて言うの」

「私はあさみって言うんだよ」

「なんかお花の名前みたい」

「アザミっていうお花ならあるけどね」

「そうなんだ」

 手をつないで歩く仲睦まじい二人。あさみは生まれて初めて、楽しいと思ったような気さえする瞬間だった。手は難く結ばれており離れないように手をつないでいる。偽物の入道雲が空の向こうから頭部だけをうかがわせていた。

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システムロジック -system logic- 笹皆 @sasamina

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