Last Phase 平和

 ピンフがいなくなってから十年で、ロジカル社は倒産した。トップデザイナーを失った痛手は大きかったのだろう。きっと、サイバーアームズ社の連中は高笑いをしたに違いない。だが、軍事会社の死はそれにとどまらなかった。

 ロジカル社の倒産を皮切りに、世界中の軍事会社が次々に倒産していった。命からがら生き残った会社もいくつかあった。だが、そんな会社では取締役が相次いで謎の失踪を遂げ、順に自然消滅していった。


 そして、軍需産業はピースメーカー社に独占された。


 ピースメーカー社のオフィスには、国籍も、肌の色も、宗教もばらばらの人たちが働いている。彼らを束ねるのは社長の賽河深夜さいかわしんやだ。

「シャッチョー、南米デ争イガ起コッタヨウデス」

「エネルギー供給システムに干渉して、供給を止めろ。国際統治軍を派遣して治安維持と救援をさせるんだ」

「セントラルコンピュータノヤツ、命令ヲ拒否シヤガタヨ」

「ピースシステムを起動しろ。セントラルコンピュータを掌握するぞ」


 ピースメーカー社は世界に秩序をもたらした。

 利益の偏りを機械的に修正し、貧富の格差をなくす。争いが起き得る地域には物資の供給を止める。破壊行為を計画したものは、世界中の戦力を持って即座に殲滅せんめつする。暴力的なまでの世界平和。


「殺し屋が平和を築くようじゃお仕舞いだな」

 かつてKiller SS最高の殺し屋と呼ばれた凄腕の殺し屋、賽河は鼻先で笑った。


「こんな形の平和に意味があるのかしら?」

 麗蘭はいつも首を傾げる。

 しかし、ピースは当然のように肯く。

「これでいいの。私たちは人助けをしてるんじゃないもの。弱い者を虐げてきたケダモノたちから、牙も爪も奪って、檻に閉じ込めて飼い殺す。これは、そういう復讐なんだから」

 ロジカル社のトップデザイナー、ピンフは十年前に俺が殺した。だが、あのときの少女は今も生きている。ピースと名を変えても、腕は全く鈍ることなく、いささか物騒なことを口走りながら、軍事プログラムをデザインし続けている。

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Killer SS @strider

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