Phase08 遂行

「あなたは誰?」

 少女が不思議そうな顔をした。


「俺は殺し屋だ」

「殺し屋?」

「この会社が邪魔だという人がいてね」

 どうせ彼女はまともに動けない。

 俺は事情を包み隠さず話した。

「だから、この会社を殺しにきた」


「私たちを助けてくれるの?」

 少女はうつろな目で俺を見つめた。

「俺は殺す。ただ、それだけだ……」

「社長を殺してくれれば、私たちは助かるもの」


「どういう意味だ?」

「軍事用のプログラムを作れって、こんなところで、ずっと。私が嫌がったら、他の子どもたちを殺すって脅されて」

「君が作っているのか?」

「ええ。でも、辛いの。ここで一日中、機械の一部になり続けるのは」

「君がピンフなんだな?」


「私からもお願いするわ。社長を、あの悪魔を殺して!」

「社長がいなくなっても、君が自由になれるわけじゃないが」

「それでも、あいつが死ぬのなら」

「そんなに憎いのか?」

「私はここから動けない。こんな目に遭わされているのに、復讐もできない。だから代わりに、あいつを殺して。ズタズタに引き裂いて!」

 悲痛な叫び声が地下室に反響する。


「悪いけど、殺すのは社長じゃないんだ」

「どうして? 技術が欲しいのならあげる。すごくお金になるそうよ。だから……」

「子どもたちを助けるのも不可能だ。子どもは俺が皆殺しにした」

「えっ?」

 一瞬の驚きの後で、ピンフは絶望しきった目をした。ただでさえ青白い顔が、真っ青に染まる。


「もう一度言うが、俺はこのを殺しに来たんだ」

 俺はピンフの首筋に手を伸ばした。

「そういうこと……。狙われていたのは、私だったのね」

 ピンフはそっと目を閉じた。左目のふちから、一筋の涙が伝った。抵抗しても無駄だと分かっているのか、身動き一つしない。生きることも、自由になることもあきらめている様子だ。そして、復讐という最後の願いもあきらめて、不条理な死を受け入れようとしている。苦しみから解放されるのを喜んでいるのだろうか、口元に薄っすらと笑みまで浮かべていた。


「すまないな……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る