第10話


  19 大団円


「ふじわらくーん!」

凄まじい声が起こった。そして藤原くんが何だと振り向いた時には、久美ちゃんの全身が彼の視界を覆っていた。

 まさにこの瞬間、ナンバー14にこの場所に連れてこられた久美ちゃんが、藤原くんの姿を発見し、ナミちゃんの作戦?に従って、抱きついていったのだった。だが、久美ちゃんは今まで男の子に抱きついたことがなかった。それで抱きついたつもりが、とっさのことでついプロレスごっこで慣れ親しんだフライング・ボディーアタックの格好になってしまった。プロレスの心得など全くない藤原くんはフイを突かれてモロに食らった。そして悲鳴を上げながら、久美ちゃんごと引っ繰り返り、なんと加藤くんの足元まですっ飛んできた。

 さしものナンバー13も仰天した。このまま爆発すれば、ナンバー1も間違いなく巻き添えだ。13は慌てナンバー1を助け起そうとした。だが、

「かとうくーん!」

そこへあのナミちゃんの叫びがした。彼女は近くの木の枝にひらりと飛び乗ると、美しいフォームでダイビング・ボディーアタックをかましてきた。これには加藤くんのみならず、藤原くんも、13も、幸美さんまでも巻き込まれて吹っ飛んでいった。

「いたた・・・」

藤原くんはなんとか立ち上がろうとした。が、いきなりナミちゃんのひざがモロに顎に入って悶絶した。

「ゆきりん、ひどい!」ナミちゃんは右手で加藤くんの腕を取り、なぜか左手でナンバー1の襟首を掴んでわめいた。「抜け駆けするなんて!約束したでしょ、加藤くんに告白する時は、お互い正々堂々と一緒にやるって!」

「え?」幸美さんは何が何やら分からなくなってきた。それも実は仕方ないことで、ナミちゃんは幸美さんとそんな約束を交わした訳ではなく、ただ単にとっさの思い付きで言っただけなのだ。それに実を言うと、ナミちゃんは藤原くんに久美ちゃんのことを褒めることさえサボっていたのだった。

 そんなことを露知らぬ久美ちゃんは、下敷きになって目を回している藤原くんに驚いて、必死に助け起そうとした。だが、加藤くんと幸美さんとナンバー13とナミちゃんの四人が乗っかっているのだ。そう簡単に助け出せるわけがない。

「にゃごなご!」

とそこへまた新手が来た。久美ちゃんの忠猫クマスケがご主人の危難を察したのか、急行して来てくれたのだ!

「クマスケ、いいところに!」と久美ちゃんは喜んだ。しかし、子猫が大の男の救助を手伝えるわけもなく、にゃごにゃごと精神的に応援しているだけだった。

「クマちゃーん、おばちゃんを置いていかないでー!」

と、今度はクマスケを追って、幸美さんのお母さんが来た。そしてこのこんがらがった状況を見てすみやかに驚愕し、すぐさまスマホを取り出して110番通報してしまった。

「もしもし、こちら○○高校です。大惨事です!ええと、加藤くんと幸美ちゃんと、久美ちゃんと、ナミちゃんとクマちゃんと、知らない人と・・・」

「藤原くんです、藤原京也くん!」久美ちゃんは必死に叫んだ。

「そう、藤原京也くんが大変なんです。今すぐ救助隊を、救急車とか消防車とか、自衛隊とか!」

これには、幸美さんがお母さん救急車は119番でしょうと言ったが、もう遅かった。藤原くんのお爺さん、元国家公安委員長という警察の親玉の御爺さんから「孫を頼む」と言い含められていた警察は、「藤原京也」という固有名詞に超過剰反応した。アッという間にパトカーのサイレンがいくつも聞こえてきた。

「まずい!」ナンバー13は顏を強張らせた。他の時ならともかく、今は銃と爆弾があるのだ。彼は素早くそれらの凶器を手に収めると、力任せにこんがらがりの中から身を引き抜いた。そうして、チラと加藤くんに目をやると、かすかな微笑みを浮かべた。

「どうも、今日は日が悪い。またいつか会おう。」

「おい、ちょっと待て!僕を助けろ!」ナンバー1は叫んだ。しかしナンバー13は軽い軽蔑の色を浮かべただけで、そのまま脱兎の如く駆け出して行ってしまった。

「藤原くん、藤原くん、大丈夫?」久美ちゃんは、藤原くんを助け出そうと力の限り引っ張った。しかしなにしろナミちゃんがむんずと首根っこを掴んでいるのでどうにもならない。

「ナミちゃん、放して!」久美ちゃんは必死に叫んだ。だが恋のお相手とライバルを前にして完全に頭に血が昇ってしまったナミちゃんには通じない。

(困った、誰かの別の助けが・・・)久美ちゃんがそう思った瞬間だった。

「こおら、久美スケ、ナミちゃん!後片付けを放り出していくなあ!」

そこへ頼りになる親友の斉藤一子ちゃんが突進してきた。

「こんなところでじゃれて遊んでいて!五時半までに片付けないと、食堂のおばさんに怒られる・・・」

ここまで言って、目の前に飛び出してきたクマスケをよけようとした一子ちゃんは、オットットと、よろけてしまった。そして、こんがらがった人達の上に駆けてきた勢いそのままに突っ込んできた。

 ポキリ、と音がした。藤原くんはキャーッとみっともない悲鳴を上げた。どうも彼の足の骨さんが折れちゃった音らしかった。


  20 エピローグ


 ちょっと、エピローグって、何よ!もうおしまいなの、此の小説!で、何でアタシがここにいるのよ。ああ、分かった!いよいよアタシが主人公に・・・って、分かっているのよ。どうせアタシは弁士さんですよ。ハイハイ、締めをやりましょ。仕方ないわね、フン!

「まだら団」のナンバー1たる藤原さまは、あの騒ぎで右足を複雑骨折しちゃったの。それはマアいいんだけど、その後、痛い痛いって泣きわめいて、格好悪いったらなかったわ。それで校内の人気を決定的に失っちゃったの。そのせいかしら、居心地が悪くなったのか、すぐにアメリカ留学と称して転校していっちゃったわ。ホント、困ったものよねえ。

加藤は、勉強にバイトに生徒会活動にと、いろいろ元気にやっているみたい。真田幸美も生徒会長として充実した生活を送っているとかいうことよ。その上ね、この間の日曜日には二人してデートしていたという噂よ。本人達は生徒会活動の一環であるボランディアだとか言っているらしいけど、怪しいものね!キー、悔しいわ!ナンバー13が粛清してくれないかしら。・・・でも無理ね。ナンバー13は、今はもう日本にはいないから。ナンバー13に銃を渡されたセバスチャン熊本さんが駆け付けた警察とハチ合わせになって逮捕されちゃったの。それで警察の尋問で、あの公園での連続殺人はナンバー13の仕業だって白状しちゃったのよ。さすがに藤原さまの関与のことまでは口を割らなかったらしいけど、でもこれでナンバー13は当分日本に入国できないわね・・・

斉藤一子は、柔道部の世田谷とかいう、ゴツくてダサくて臭そうな大男とくっついたそうよ。二人仲良く肩を並べて下校するのを幾度か見たわ。生徒会の副会長になるわ、好きな男とくっつけるわ、ホーント、幸せな娘ね。憎ったらしい話だわ。実際!

綿貫浪江、彼女はまた気が変わったらしいわ。「親友であるゆきりんのために身を退くわ、ああ、私ってなんて友達思い!」とか抜かしていたけれど、実際には加藤の口にする話題が堅苦しくて内容が半分も理解できないから嫌気が差したということらしいわ。それで次のターゲットは、アタシ・・・じゃなくて、あのナンバー13らしいという噂よ。「あの陰のある横顔がステキ」とか抜かしているんですって。ホント、人を見る目のない、救いようのないおバカなミーハー子ちゃんよねえ!アタシよりもナンバー13がいいだなんて!

真田幸美のお母さんは、クマスケとかいう猫のファンクラブ拡大に大忙しらしいわね。なんでも、最近あのナンバー10の火渡沙希も入会したらしいわ。それでクマスケを使った新しい占い「子猫占い」を開発して大儲けらしいの。クマスケも雑誌に紹介されて、結構人気が出たそうよ。ウキー、クヤシイわ!雑種の元捨て猫の分際で、人間のアタシよりも有名になるなんて!もう此の世の中は間違っているわね!

それで鬼首の久美ね。あの娘は相変わらずよ。海の向こうの藤原さまを明るく元気に恋慕っているわ。「アメリカまで追っ掛ける」とか言って、英語の勉強に邁進しているみたい。でもね、いくら勉強しても、しょせんアタシよりも英語の順位が百番以上も下なのよ。ホホホ、おバカはどうあがいてもバカん子ちゃんなのよねえ。それにどうせ、あのナンバー1がなびくわけないわ、あんな野蛮な娘に。でもね、なんかこの前、藤原さまから手紙が来たって、みんなの前ではしゃいでいたわね。何の手紙かしら?マア、どうせあのナンバー1が寄越す手紙なんだから、嘘ッパチのロクでもない手紙に違いないわ。そうよ、いくら鬼首久美が涙を流して喜んだって、絶対にあの二人はくっつきやしない。ましてやあのナンバー1が真人間に立ち戻るなんてありえないわ。ええ、ありませんとも!

ところで「まだら団」は主要メンバーをほとんど失ってしまって、活動停止に追い込まれてしまったわ。それでアタシもうやむやのうちに「まだら団」を外れたようになってしまったの。全く、メンバーになった途端にこんなことになるなんて、なんて不幸で可哀相なアタシなのかしら・・・トホホ。

でも、でもね。アタシもね、そう捨てたものじゃないのよ。だってね。実はね・・・

って、もう終わり?ちょっと、待ちなさいよ!アタシの話をさせてよ!最後くらい、主人公ちっくにさせてよ、ちょっと!


おしまい

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愛ハ世界ヲ救フ? @simadu

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