第1話 うどん

北風が吹きすさぶ今日この頃。

意外と体力を使う部活を終え、私の腹が悲鳴をあげている。

「えっーと、冷蔵庫は…っと」

寒い季節になかなか開ける気になれない冷蔵庫を覗くと、卵と、野菜室にはほうれん草、冷凍庫にうどんがカチカチの状態で鎮座している。


よし、うどん作ろ。

そう思い立って、鍋を取り出す。鈍く光る彼に、水と出汁を適量注ぎ込んで火にかける。

黄金色の液体が沸騰するまでの間に、ほうれん草を刻んでおく。

ふつふつとしてきたら頃合いだ。

固まった白い麺を投入し、ほうれん草をぶちこむ(適切な表現がこれしかないのだ)。

お湯がうどんの隙間に入り込み、中から白い貴婦人を溶かして行く。

ほうれん草も湯だって柔らかくなる。

最後に卵を一つ割りいれば完成だ。

鍋敷きを持ち、鍋のままテーブルへ持っていく。

母がいれば丼に移しただろうが、私はそのままが好きなのだ。 

箸を持って、「いただきます」手を合わせる。

さてと、まずはうどんから。

麺を数本取り、丁寧に冷ましてから口に運び、ゆっくり噛み締める。

程好い弾力で歯を押し返し、小麦粉の甘さが口の中に広がり、出汁と絡み合ってまた違った旨味を引き出している。

次はほうれん草だ。

柔らかくなったこの青菜は出汁を吸ってうどんとよく合う。

トロリとした黄身もうどんと絡まり、まろやかさをプラスしている。

「ほぅ……」

ため息を付くと、湯気が口から漏れ出る。

冬に近い季節になると、こういう温かいものが冷えた身体に染みる。

うどんを取り、口に運ぶ。この所作を繰り返す。一人なので話し相手など居ない。

だが、食事を中断される事もない。

冬はまだ始まったばかりだ。



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ぼっちめし 深海さくら @Knights

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