強大な磁力の嵐を起こしては、人々の命を奪う不気味な古代遺跡「孤塔」。その調査を行うために必要不可欠な、磁力を操る能力を生まれつき持つ者だけが「塔師」として選ばれる世界。
農家の娘カシホの、平凡だが幸せな日々は、初恋の人の予期せぬ死によって、突然、終わりを告げる。「塔師」となるべく、困難な任務に立ち向かう彼女を突き動かすのは、亡き幼馴染への一途な想いだ。彼女を導く歳上の指導教官ギズは、塔師としては当代随一の技術を持つものの、出会った時から不愉快極まりない態度でカシホを圧倒し、お世辞でも「尊敬できる師」とは言い難い男だった――
健気で生真面目な少女と、凄腕だが毒舌で優しさの欠片も持ち合わせぬ男。この組み合わせだけでも、何かが起きる予感がする……そう思わせる序盤から、調査のため塔の内部へ突入する直前から起こり始める異変に、物語は一気に緊張感を増す。読めば読むほど深まる「孤塔」の謎に加えて、そこに現れる異様なものの存在が、古き良きファンタジー特有の仄暗さを否応なく浮き彫りにする。
色々な視点で楽しむことが出来る作品でもある。切ない「恋物語」の舞台となるのは、微量にSF的ながらも郷愁を誘う古めいた世界。「孤塔」という「化け物」の内部で繰り広げられるミステリー。そして、得体の知れないものに立ち向かう冒険譚……それらを繊細な言葉でつなぎ合わせ、秀逸なハイファンタジィが紡ぎ出されていく。
この作者さまが描くヒロインは、儚げに見えて、とても強い。周りに強い男が居ても決して媚びず、大人しく守られようなどとは思いもしない。自分の手で運命を切り開き、戸惑いながらも己が信じる道を真っ直ぐに突き進む。本作のヒロイン・カシホも、そんな少女の一人だ。その一途さに心を奪われ、思わず「頑張れ」と応援したくなる。
カシホとギズ、それぞれが胸に抱く愛しい人への想いの行く末と、古びた塔の謎に挑む彼らの勇姿を、最後まで見守りたいと思う。