第47話 蠢く影

 舞踏会が終わり、ホールに集まっていたときに色々な事を確認した。



 リンバルは、脱走するまでに尋問を受けていたようだが、柳に風のような態度で、全く取り調べが進まなかったようだ。


 体面上、帝国軍の将校クラスであるという理由で、強く取り調べをできなかったらしい。


 しかし今回、エリーを誘拐してしまった為に、王女誘拐による国家転覆を謀った重犯罪者となってしまった。どうやら今までの配慮は必要なくなり、拷問にシフトするという事だ。



 リンバル絡みでは、ヴァレオがどうなったのか気になっていた。


 団長職、貴族職剥奪の上、地下牢に入っているらしい。30年はお世話になるだろうと言うことだ。


 リンバルを匿って、麻薬の利益を独り占めしようとしていたらしい。


 元々の貴族変死事件を引き起こしていた張本人でもあるということだ。


 こちらも国家転覆罪が適応されているみたいだ。



 エリーとリンバルを迎えに来ていた、VTOL機は昼の間に回収を済ませたようだ。


 これから分解と解析が始まるのだろうが、大変なんだろうなと俺は思ってしまう。

 専門外の意見は得てしてこんなものだろう。


 しかし、この中世の様な世界にあんなものが存在するなんて驚くばかりだ。何故かあまり周りの方々は驚いていないように思えるが……。まあ、驚いた顔を他に見せたくないシャイな人ばかりなのだろう。


 この恥ずかしがり屋さんめっ!



 ルシフェルがこの場に現れたということは大丈夫だと思っていたが、研修生は全員保護されたようだ。北の森は危険が少ないとは聞いていたが、同期の面子に何かあったりすると、やはり気が重い。


 全員が無事であるということなので安心した。



 ルシフェルは、あの後、下着1枚になって王城から逃げるように走っていった。


 貴族の女性達に散々抱きつかれ、さぞ嬉しかったのだろう。


 今まで聞いたことのない絶望の声を発していた。


 ガラスに爪を立て引くような声、と言えば分かりやすいだろうか。まあ、なんだ、ざまあ!!



 戦利品の1000万マルクは俺とお姉ちゃん、ジュリアス、リアナで分配するようになった。


 エリー、アルティアとその仲間達は辞退した。王族や貴族は懐が暖かくて良いね!


 う、羨ましくなんてないよ? うん。


 その辞退のおかげもあってなんと! 1人250万マルク!


 贅沢しなければ、1年遊んで暮らせる額だ。


 まぁそんな事をすると、その後が大変だからしないけどね。



 研修の報告は既に兵士がしてくれているということだった。ワイルドボアは倒せなかったが、リンバルは倒せたのでミッションコンプリートにならないかな? 少しだけ期待して明日ギルドに行こう。


 でも試験でもないので、特に何もないのかもしれない。



 最後にエリーから、またすぐにここへ呼ばれますよ、と嬉しそうに言われた。


 どういう事かと聞いてみたら、わたくしの救出とリンバルの身柄確保の報酬がありますからと教えてくれる。


 勇者のお陰で既に小金持ちなんだが、良いのだろうか? と思ってしまう。



 そして俺達は帰途に着いた。


 エリーが寂しそうだったのは気のせいだろうか。


        ☆


 王城からは馬車が俺たちを運んでくれた。これがまた豪奢な馬車だった。


 馬車なのに、サスペンションでも入っているかのような静粛性。揺れないんですよ! 乗り心地はまるでリニアである。


 馬車はリアナの家、ジュリアスの馬屋、風の乙女亭というルートで走ってくれた。


 夜道で女の子(リアナ)1人は危険だからね。まずはリアナが馬車を降りた。また明日ねと言って。

 そして、次にジュリアスが降りた。降りざまに、明日昼から付き合えと言ってきた。


 俺にはそんな趣味はないというと、うるさい! 二度と誘わない! と言われてしまった。


 取り敢えず、おう! また明日な! と言っておいたが。


 そして、風の乙女亭に着いて全員が降りた。



 ホールに入ると、ティアンネさんがカウンターで帳簿をつけていた。


 俺達に気がつくと、「おかえりい!」と言ってくれる。良いなあ、本当の家みたいだ。


 みんなで「ただいま!」と返事する。ティアンネさんはうんうんと頷いた。


「今日の晩御飯はどうするのさ? もう何処かで食べてきたのかい?」


「いえ、まだなんです」


「そうかい。あるもので作るように言ってくるから少しだけ待ってな」


 そう言って厨房に入っていった。俺達は食堂で待たせてもらうことにした。


 舞踏会では食べ物は出てこなかった。ボーイさんがアルコールは運んでいたんだけどね。


 しばらくすると、ティアンネさんが料理を持ってきてくれた。


 恐らく残り物の食材でやり繰りしたのだろう。


 しかし料理の体裁は保っており、一口食べると旨味が広がる。いつものシェフの味だった。



 ティアンネさんは、料理を全て運び終えると、食堂の椅子に腰を掛けて帳簿をつけだした。


 そう言えば、さっきもカウンターで記帳していたのを思いだす。


「ティアンネさん、ここに来て帳簿をつけているのを初めて見たけど、やりくり良くないの?」


「あんた何言ってるのさ。わたしが普段、仕事をしていないみたいに言うんじゃないよ! むしろ逆さ、逆! 最近、店が回らなくて困っているんだよ」


「叔母さん、そうなの? ギルドのお仕事終わってから手伝いましょうか?」


「ありがとう、アンナちゃん。あんたは忙しいんだから気にしなくても良いんだよ」


 そう言うとティアンネさんは帳簿をパタリと閉めた。


「悪かったね。そんな深刻な話じゃないんだよ。わたしはカウンターに戻ってるから、食べたらそのままにしといてもらっていいからね」


 食堂から出ていくティアンネさん。歩みが重いのは気分がそうだからなのだろう。


 どこも人手不足というのは変わらないのかもしれない。


 俺達は食べた後の食器を片付けて、各自の部屋に戻っていく。


 

 部屋に戻った俺は、頭の中にあるプランが過ぎっていた。


 この娯楽の少ない世界。ビッグビジネスのチャンスの匂いがする。


 ギルドカードをかざしてみると、所持金は261万マルク。


 こんな大金、俺には今のところ使いみちがない。いやあった、ピアノが欲しい。


 それを買うには、もっと経済力が欲しいところだ。


 よし、まずはシャワーだな!


 俺は疲れた体をリフレッシュする為に、シャワーを浴びるのだった。


       ☆


 カツン……カツン……。


 王城の地下牢に不似合いなヒールの音。


 歩く度に揺れる銀色の髪。


 その音はリンバルの牢の前で止まる。それに気がついたリンバルは悲鳴を上げる。


 いや、上げようとした、というのが正しいのかも知れない。


 その声は牢の外に聞こえることがなかったのだから。


「無駄よ。風の防壁を越えて、表に声が届くことはないわ」


「ど、どうやって……」


「私には空間も障害物も関係ないことは知っているでしょう? これから居なくなる貴方には関係のない事だけれど」


「俺はあんたの指示通りにーー」


「途中までは、ね。しかし貴方は1度捕まり、そのまま逃げればよかったにも関わらず、王女を攫った」


「俺にも意地はある。失敗したまま逃げ帰るなど出来るものか!」


「本当に貴方はダメな人ね。今、貴方の存在は帝国にとって癌でしかない。帝国の将校が王国の王女を攫うなんて、国際問題で済まないでしょう?」


「ば、ばかな!? それで俺を消すと言うのか!?」


「ご明答。風よ……」


 その言葉に反応して、風がリンバルに襲いかかる。


 いや、風と言うより刃というのが正しいのかもしれない。


 瞬時に切り刻まれるリンバル。男の姿は肉塊に変わっていった。


「貴方では遊び相手にもならなかったわね。次は私を殺した爆炎(へんたい)かしらね……」


 そう言って女性は闇に消えていった。

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