星流夜
東雲 彼方
星降る夜にまた君と
「見て! あそこ、流れた!」
「ほんとだ、すごいすごい!」
そう言って笑ったのは何年前の事だったろうか。
「いつまでも、あたしと茜がおじいさんになってもいっしょにここに見にこようね」
「うん!」
毎年この丘の上で流星群を一緒に見ようと約束した。
でも、
それが叶うことはなかった。
僕だけがこの街に囚われ続けたのだ。親の転勤が理由だったから、子供にはどうすることも出来ない。美紀を責める必要は無かったのに。なのに僕は彼女を詰った。何故、約束だろう? と。
僕だけがこの丘に縛り付けられ、毎年流星群をここで眺めている。
「ふたご座流星群、ふたごはあたしたちだよ、か……二人揃って完成だったのにな。君がカストルで僕がポルックスなのに」
カストルが死んでポルックスだけが残された。嘆き悲しむポルックスの為に神様が二人を
「僕は囚われのポルックスだ……」
冬空の下、コートに手を突っ込みマフラーに顔を埋めて夜空を眺める。場所は約束の丘の上。あの時に比べて随分と空が濁るようになった。こんな片田舎を再開発などする必要も無かったのに、薄汚い光を発する建物が増えてしまった。これで思い出の流星群が見られるのだろうか。
不安が闇に広がる。流星群に囚われているのは僕だけだ。
何もない芝生の上に寝転がる。風邪を引くわけにはいかないのだが、こうしないと上手く宇宙を眺められない。隣には誰もいない、コートの下はもう随分と着慣れてしまったスーツ。ネクタイを緩めてマフラーをきつく結び直した。
多分、この場所に囚われるのもこれで最後なんだろう。そう思うと泣きそうになる。男が泣くのはみっともないと誰かは言った。僕はそうは思わない。男泣きは格好いいだろう。だが僕が泣くのは女々しい理由だ。せめて……星の流れの美しさに涙したい。
現在19時半。あと30分くらいで宇宙が涙を流すのだろう。せめてそれまでは――。
ふ、と人の気配を感じてそちらを眺めてみれば綺麗な身なりの女性がいた。そこに立ったままこちらを見ている。
「あか、ね……?」
「え……」
彼女の口から発せられたのは僕の名前。僕はこんな人知らない。誰だ。怖い。
ふっくらとした艶やかな唇が動く。
「あたしはカストル、君はポルックス。ポルックスが悲しむから毎年ここで流星群を眺めよう。約束だ、」
「星の流れる夜に、またこの場所で会おう――」
これを知っている筈の人物はただ一人。十何年も前に僕の隣にいた人、ふたごの片割れ。
「……美紀?」
「茜、ごめんね。約束を果たしにきたよ」
その瞬間、宇宙からも目からも一筋の光が零れた。つう、と頬を夜空を辿って落ちていく。
「この場所に囚われていたのは君だけじゃなくて、あたしもなんだ」
恥ずかしそうに耳を赤くしながら話すその姿は視線こそ変わったが中身は変わっていたなかった。
共にあることを誓った、離ればなれになっていたふたごの再会を天が祝福する。
「ほら、泣いてちゃ流星群が見えないよ。……あたしも隣で見ても、いいかな?」
袖口で僕の頬を拭いながら彼女は聞く。
「勿論。ふたごはいつでも隣にいるのだろう?」
「ありがとう……」
その瞬間、彼女の目からも一筋。
「二人して泣いてちゃ世話ないだろう。ほら、あそこ」
指差した先には仲良く並ぶふたごの星。そしてその出会いを祝福する星々の涙。
丘の上には随分と大きくなったふたご。並んで夜空を眺めていた。
『星の流れる夜に、またこの場所で会おう』
星流夜 東雲 彼方 @Kanata-S317
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