星流夜

大福がちゃ丸。

星降る町

 星が降るような夜、なんて言葉があるそうだ。

 今日は、雲一つ無くて、本当に夜空が綺麗だ、何十年に一度のなんとか流星群が見える日らしい。


 大人も子達も外に出て、星空を見上げている。

 ぼくは、バスケットケースに、お菓子を少しとリンゴのジュース、それと、ラム酒を入れて町はずれにあるトニオ爺さんの家に向かっている。


 こんな夜だもの、きっと面白い話を聞かせてくれる。

 そんな事を考えながら歩いていたら。


「マルコ! どこに行くの?」

 友達のアニータだ、赤い髪を三つ編みにして揺らし、クリクリした目を輝かせて興味津々た。


「やあ、アニータ、こんばんわ」

「こんばんわ、じゃないわ、どこに行くの? と聞いているの」

 同い年なのに、お姉さん面するのでちょと苦手なんだよね。

「えぇっと、トニオ爺さんの所に……」

「まぁまぁ! トニオお爺さんの所?!」


 言ってしまって、しまった! と思った、トニオ爺さんは『ホラ吹きトニオ爺さん』なんて呼ばれていて、おばさんたちに評判が悪いんだ。

 昔は、腕のいい漁師だったから、おじさんたちには、あまり悪く言われないんだけど。


「いいわ、私も行く! マルコは頼り無いもの、ちょと待ってて」

 言うが早いか、家の中に入って行った。


 は? どうゆうこと? 呆然とするぼくをよそに、家から出て来たアニータは、ぼくの腕を引っ張りグイグイ歩いて行く。

 開いているドアから、アニータのおじさんとおばさんがニコニコしながらこっちを見ていた。


『絶対、誤解されてる……』

 ぼくは、アニータに引かれ頭を抱えながら、トニオ爺さんの家に向かったんだ。


 トニオ爺さんは、庭のテーブルにラム酒を置き、ロッキングチェアを揺らしながら星空を見ていた。


「こんばんわ、トニオ爺さん」

「こんばんわ、トニオお爺さん」

 ぼくらが、挨拶するとトニオ爺さんはニッコリ笑って。


「おぉ、マルコ、今日は彼女連れかね?」

「ち、ちがうよ!」


 変なことを言うから、顔が熱い。

 ちらっと、横を見たらアニータは顔を赤くしてる。


 ぼくらは、持ってきた飲み物やお菓子をテーブルの上に広げ、トニオ爺さんにお土産のラム酒を渡した。

「トニオ爺さん、今日は流星群が見れるんだ、星の話は無い?」

 隣で座っているアニータも、目をキラキラさせて興味津々だ。


 トニオ爺さんは、ふむっ、と髭を一撫ですると。

「これはな、わしの爺さんの友達から聞いた本当の話じゃ」


 **********


 その町は、年に何度も星が落ちてくる山がありました。

 被害が出ないくらい小さな星、でも、一ヶ所に頻繁に落ちるのは非常に珍しく、いや、在り得ない事でした。

 その町では、その星々を博物館や訪れた学者たちに売り、中々裕福な暮らしをしていました。


 ある日ある時、大きめな星が落ちてきました。

 牛ほどの大きさの星は、少し流星に詳しいものが居れば、その大きさの星が落ちて、大した被害が無いのが不思議がるモノでした。

 実際、山を見張っていた者は、その星が地面に落ちる寸前、一度浮かび上がった、と話してみんなを驚かせました。


 こんなに大きくて不思議な星なら、高値で売れるに違いない。


 報告を聞いた町長は、自分の屋敷にその大きな星を運び入れます。

 大きな星の前で、町長と町の人々が話し合っていると。


 バキッ


 大きな音がしました、見ると大きな星にヒビが入っています。

 こりゃ大変だ、運び込むときにどこかにぶつけたのかな? 町長と人々はそう思った時です。

 ヒビが開き、大きな目が ギョロ と出てきました。

 目玉は、ギョロギョロと周りを見渡すと、町長たちの方をじっと見ています。


 バキバキッ


 またヒビが入ります。

 大きく開いたヒビには、人間のような歯が生えています、そして、大きな声で言いました。


「我、星神なり、我の砕かれた体、この地に落ちてきた体を集めよ」


 何と恐ろしい、大きな星は自分を神だと名乗りました、今まで落ちてきた星々はこの星神の体だというのです。

 町長は、おっかなびっくり、その大きな星にたずねます。


「星神様は、体を集めてどうなさるおつもりですか?」


「我、力を持ちてこの星の者共を従え、我を砕いたもの共に復讐してくれよう」


 あぁ、何と恐ろしい、大きな星は復活し人々を奴隷のようにして、天に昇り争いを始めるというのです。

 町長と町の人たちは答えました。


「気持ち悪い」


 町の人々は、クサビとハンマーを持ってきて、大きな星を砕き始めます。

 始めのうちは、「やめろ」とか「ただでは済まさぬ」とか叫んでいましたが、しまいには「ぐへ」とか「ぎゅほ」とか間抜けな声に変りました。


 大きな星は、砕かれて小石のようになり海に捨てられてしまいました。

 それ以来、町には星が落ちて来る事は無くなりましたが、町の人たちはそれなりに幸せに暮らしました。


 **********


「いやだわ、お爺さんそんなことあるわけないじゃない」

 アニータは言います、けれどキラキラした目でトニオ爺さんの話を聞いてたのを、ぼくはわかっていました。


「でも、アニータ、お話し面白かっただろ」

 ぼくが言うと、アニータは少し考えるふりをして、にっこり笑って。

「うん、面白かったわ、トニオお爺さん、またお話聞かせてね、マルコと来るから」

 え?! ちょっと待って僕と一緒なの? 一人でいいのに。


「ねぇ、アニータ、また、ぼくと来るの?」

「あら? マルコが誘ったんじゃない、それにまた面白い話聞きたいわ」

 そんな事を言ってきた、え? ぼく誘ったっけ? 面倒なことになっちゃったなぁ。


「うむ、またおいで、そうだ、アニータ、冷蔵庫にケーキがあるから取ってきてくれんか」

 と、笑いながらトニオ爺さんが言う。


 ぼくは、アニータ姿が見えなくなってから小声でつぶやく。

「こんな事になるなら、ここに来るの言わなきゃよかった……」

 いや、もう困ったなぁ。


 ぼくの声が聞こえたのか、トニオ爺さんがこれまた小声で話してくる。

「マルコ、こう言うのを『閉じてる口にはハエは入らず』と言うんじゃ」

 ウインクしながらニヤリと笑ってそう言った。





 *『閉じてる口にはハエは入らず』

 余計な事を喋っている人にはハエも口に入るぞと言う意味。

「口は災いの元」が近いそうです。

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星流夜 大福がちゃ丸。 @gatyamaru

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