第15話

赤宮一花は呪われている。


「『呪われている』というのは、どういう意味ですか?」


「書いて字の如く、呪いの被害に見舞われている状態です」


呪いと聞いて、ぼくは真っ先に藁人形を思い浮かべた。

丑の刻に嫌いな相手を思いながら、藁人形に向かって釘を打ち込む。呪いというのは、そういうやつだ。無論それは昔話やおとぎ話で出てくるようなフィクションの代物であって、科学的にはなんの根拠もない。


ーーしかし、ぼくは現にキツネの妖怪にナビゲートしてもらってこの神社にたどり着いている。あれだって本来フィクションでなくてはならない案件だ。しかしながら妖怪はぼくよりオシャレな若者に化けて道案内をしてくれた。こうなってくると『呪い』だってもしかしたら実在するのかもしれない。


「僭越ながら、日下部くさかべ様は赤宮家がどのような家系かをご存知でないと伺っております。少々噛み砕いてご説明させて頂きますと、呪いというのは一種の病気のようなものでございまして、その症状に適した対処をする必要があるのです。一花様の父親にあたられる赤宮宗一あかみやそういち様はその対処のため、外に出られております」


呪いは病気のようなもの。

おばあさんがぼくをからかっているようには思えないし、そもそもそんなことをする意味もないだろう。きっと今こうしてぼくが聞いている呪いの話は、どうしようもない現実の話だ。


呪いという存在の真偽はともかくとして、現在の赤宮家の事情というのは理解できた。ぼくの許嫁、赤宮一花は呪いによって病床に伏している。それをどうにかするために父親の赤宮宗一は京都の外を奔走している。そしてこのおばあさんは、赤宮家の分家としてこの狐狸神社の管理を司っている。


さて、ということは、ぼくはどうしたらいいのだろうか。


「今のお話から察するに、一花さんは今も不調でいらっしゃるんですよね?」


「左様でございます。一花様は現在も別棟にておやすみになられています」


「ぼくがお見舞いに顔を出せるような状態でしょうか」


「呪いというのは感染するものではございませんから、別棟にお入りになられる分には問題はございません。しかし、一花様は呪いの影響でもう2週間もの時間、昏睡しておられます。お話になることは難しいかと」


「昏睡って・・・かなりマズイ状況ですよね」


昏睡状態。それは、意識障害のうちでも最も高度なものではないか。


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京都アヤカシ物語 のび太 @ababaisme

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