第4話 てんし

 良い事はいつ来るかわからない



 当たった。

 まさか当たるとは思わなかった。

 現世に燕尾服の手伝いで来ていた時、生きていた頃住んでいた家のポストを覗きに行った。

 飯嶋がやっている料理番組の収録後に行われる手作りスイーツご招待券。

 現世に戻っている時に母親の名前で出していたのが当たったのだ。

(行きたい)

 猛烈にそう思い燕尾服に相談するメル。

「もうあなたの事は覚えていませんから行っても辛い思いをするだけですよ」

 呆れた様に言う燕尾服。

 でも。

 それでも。


 

 目いっぱいおしゃれをしてTV収録会場に来たメル。

(一言位話せるかな)

 そう期待しながら一般観覧席に行こうとすると、

「そこのあなた!」

 大柄のマネージャーが物凄い勢いで駆け寄ってきた。

「あなたこの前のラジオ収録で暴れた子でしょ。あなたは出禁です」

 そうしてメルの襟首を掴む。

(迂闊だったな)

 泣きそうになるメル。

「ちょっと待って」

 優しい声がその場を救った。

「『全世界へ平等に愛を音楽を届ける』が俺のバンドコンセプトだから彼女も平等に参加させてあげて」

 声の主は飯嶋だった。

 久しぶりに聞く飯嶋の声。

 声も優しさも変わっていなかった。

 渋々メルを放すマネージャー。

(ありがとう)

 相変わらず空気も心も暖かくする。

 彼だけは本当に天使なのかもしれない。



 収録が終わりいよいよ招待された10人にスイーツをふるまう時間が来た。

 みんなそれぞれに注文を聞いて回る飯嶋。

 しかしメルの所には横にいるマネージャーが飯嶋の袖を強引に引っ張り来なかった。

 みんな楽しそうにスイーツが来るのを待つ中、1人下を向いて待つメル。

 やがてそれぞれが注文した飯嶋の手作りスイーツが並ぶ。

 自分は注文できなかったから何が来るか、若しくは何も来ないのか、下を向き続け待つだけのメル。

 そんなメルの前に何かが置かれた。

(私にも作ってくれたんだ)

 そうして顔を上げたメルの前にあったのは色とりどりのフルーツに彩られた大きなプリンだった。

 そしてそのプリンの上には文字が書かれていた。

『全世界へ平等に愛を音楽を届ける

(本当に変わらないなぁ)

 思わず笑ってしまったメル。

 そして続きを読む。




















 

 But you only special』


 終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あいのおと 今村駿一 @imamuraexpress8076j

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ