第2話 基準

いつからだろう。ふとした時に死にたいと思った。

でもその時は死ななかった。理由がなかった。世の中の人間は何かと大層な理由があって、自死を選んでいるという偏見があった。

それは人それぞれなのだろう。仕事先や学校でのいじめ、パワハラ、セクハラ、虐待や、抱えきれなくなった借金など、私にとってそれは、想像しうるだけで到底耐えきれず、じわじわと毒で嬲られるようなものだと思っていた。

それのせいか、私は自分自身に『こんな理由で死んでいいのか?』と問いかけをし始めるようになっていた。

(仕事が辛い…死にたい)『誰だってそうだ。逃げる気か?恥ずかしくないのか?』

(人間関係が上手くいかない…死にたい)『どこの職場でもそうだ、辞めたところで行く先も無いんだ。現実から目を背けるな。』

はじめは、弱い自分を叱責するような、自分を奮起させるようなものだった。



(仕事で失敗した…)『恥の多い人生だな、なんで生きてるんだ?』

(人間関係が上手くいかない…)『お前みたいな人間が、誰に好かれるんだ?』

いつしか私を責めていた。

誰にも言えず、1人で抱え込めば抱え込むほど、私の中の『私』は私を縛り付け、締め上げ、殺しはしないがじわじわ痛めるようなそんな成長を遂げていた。


いつぞやの偉い人は「自分を叱るのは他人の役目だ。だから自分を許せるのは自分なのだ」という言葉を残したらしい。

しかしどうだろう。私はもう誰にも許されない。自他ともに、私を責めたて、逃げ道を閉じてしまう。

向かう先は闇、振り返ろうとも逃げ道もない。私を許す人間はいない。死ぬことすら許されない。


誰か私を殺してくれ。全てが他人に委ねられ、もう、私の価値を見いだせなくなっていた。





誰か私を殺してくれ。

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生きる意味を見つけるまで シロイカワ @shiroikawa

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