導入編2 庭

第7話 生贄

 うさぎ先生のシャウト謎の宣言のあと──後は頼んだ、と言い残すと、学長は早々にドロンした。


「それじゃあみなさん〜、タグを左手のここに乗せてください〜」

 キコ先生の指示に従い、ボクたちは左手首にタグ階級章を乗せる。すると、紐もないのにその位置で固定された。

 腕をふるふると振ってみたけど、不思議なことに落ちない。と、何かがタグの上に表示された。


「付けたら、腕を振ってみてください〜。何か出てくると思いますので〜、手で触って緑色にしてみてくださいねぇ〜」


 言われるがまま右の人差し指で触ってみると、何も触った感触はしなかったけど、□に✔︎が入り緑色になった。

 ──突然、目の前の地面に黒い穴が空いた。


「ちゃんとできたら床に穴が空くはずなので〜、怖がらずに飛び込んでくださいね〜」


 周りを見てみると、みんなそれぞれ空いた穴に、躊躇いなくぴょんぴょんと飛び込んでいった。ボクはゴクリと唾を飲むと、恐る恐る飛び込んだ。




 ──落下の勢いが横向きの速度に変わり、ボクは芝生の上にズザッと仰向けに着地する。

 到着したのは、どうやら広い庭のようだった。土があり、草も生え、木漏れ日が差し込む……と思ったが、木漏れ日こもれびではなかった。言うなれば、これは“雲漏れ日くもれび”だ。遥か上に見える天井は、明るい雲で覆われていた。

 庭の中央には、初日に見た大樹ほどではないけど、大きな太い幹がまっすぐにグーンと生えていて、雲の天井を支えるかのように、枝が生えていた。


 ふと、ボクの目の前を、ぽわぽわした光の玉が通り過ぎた。周りをよく見てみると、あたりにはチラホラと同じようなものが飛んでいる。じっと目を凝らしてよくみてみると、小さな虫のような羽が、せわしなくパタパタしていた。


 一体何だろうと思い、それをなんとか手で捕まえようとしていると……近くでキャアキャアとはしゃいでいる声がした。視線をやると、そこに居たのは、大量の猫、猫、猫!!……と、猫を捕まえようとしてはしゃぐ子供たちだった。


「みなさぁん、あんまりにゃんこ達をいじめちゃだめですよ〜?」


‪ パタパタと飛び回るキコ先生が、やんちゃな子をひょいひょいと捕まえて確保するかたわらで、うさぎ先生はあちこち猫に齧り付かれてバタバタと悶えていた。


「あぁ地獄!ここは地獄です!! 誰か!誰か助けてくださーい!」


 猫はじゃれているようにも見えたけど、あまりにうさぎ先生が可哀想だったので、ボクはトトトと駆け寄ると、猫をペイペイっと剥がしてリリースした。


「あああ、ありがとうございます!今!今です!今のうちに逃げましょーう!」

 うさぎ先生はそう言うと、ボクの手を掴んで走り出した。いや、ボクは逃げる必要ないんだけど……と思ったが、ぐんと引っ張られ、半ば引き摺られるように同行した。






 ──が、すぐにうさぎ先生の足が止まった。

 のし、のし、と近づいてくる、そのは、すぐにボクの目にも入った。






 ひっ、と声をあげたうさぎ先生は、腰が抜けたのか、後ろに倒れるようにドサっと尻餅をつく。

 そして、とっさにボクの手をグイと引き寄せると、そのまま前に投げ捨て、震える声でこう言ったのだ。

「わ、私みたいなおばさん老ウサギより!ここここの子!この子の方が美味しい!!絶対美味しいですよ!」


 ボクは耳を疑った。



 ポイっと投げ出され、うつ伏せになったボクの眼前に佇むのは、立派な黒いタテガミを持った、体高1.5mほどあろうかという──大きなライオンだった。その片目にはキズがあり、目が開いていない。いかにも親玉ボスといった感じだった。


 ライオンは差し出されたボクの匂いをスンスンと嗅ぐと──ぐぱぁ、と大きな口を開けて。






 ぱくり、とボクの上半身をその口内に収めたのだった。

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