マジマ2 ─ 責任

「結論から言わせてもらう。マジマ=レークス。お前からポーター中継者の権限を剥奪する。加えて、5日間の謹慎を命じる」






 ──は?







「いやいやいや!ちょっと待ってくださいよ!」


 確かに、オレは振られたタスク父親探しを達成できなかった。そこは否定できない。

 ……だが、いくらなんでもペナルティが重すぎだ。それに、オレだって文句を言いたいことがあった。


「父親を見つけれなかったのは、マジすんませんでした。……でも学長、あの時セッションをぶった切ったのは、他ならぬ学長じゃないすか!マジ何なんすか?アレが無けりゃ、すぐに現地に行けたし、父親にも会えたハズでしょう!」


 学長は黙ってオレの抗議を聞き終えると、指一つ動かさず、静かに答えた。

「なるほど。いい質問だ」


 学長は座ったまま椅子をくるりと回し、オレに背を向けた。


「まず、父親を探し出せなかったことは、大した問題ではない。問題は、場所だ」


 場所が問題だ?

 ──オレは今まで、世界にあんな場所があるとは思ってもみなかった。

 歌と踊りで賑わう、煌びやかな街カン・サルター・ヨクラート。その、ほんのすぐ隣には。

 路上に転がる、齧り尽くされ白骨化した死体。風が吹けば壊れるような、ボロボロの建物。そして、そこら中を跋扈する大量のネズミ鼠と人鼠。そこは、人の住む場所とは思えなかった。


「かく言う私も、あれほど汚染された場所だとは思っていなかった。ゲートを繋いだ瞬間、こちらに吹き込んできた瘴気を、私はと誤認し、接続を緊急切断してしまった」


 椅子をもう半周、くるりと回した学長は、手にしたペンを弾いてキンッと鳴らした。すると、オレのタグに、ライブラリに『カン・サルター・ヨクラートへのルートに関する報告』が追加されたことを告げる通知がホップする。

 ……オレが招致の中継をする招待蝶を遠隔で飛ばすために使用した根だ。嫌な予感がした。オレは手首を軽く振り、レポートを開いた。


「セッションを切った事に関しては、私の落ち度だ。そこは謝罪しよう。……だが、その後にお前がした事は、あまりに迂闊だった」


 ──開いたレポートに書かれていた内容に、オレは、どろりと脂汗をかいた。ぐらりと足元が揺らぐ。グラフと数字が並ぶ資料の先頭に、強調して書かれていた概要は、こうだった。


『カン・サルター・ヨクラートへのルートに異常を検知。クイックスキャンを行い、破損率90%以上を確認。修復不能と判断し、パージ強制切除を実行しました』



 学長は、机を両掌でバン、と叩いて立ち上がった。

「焦っていたのはわかる。だが、フルオープンポート全開放は妥当だったか?何故レイラをオブザーバー接続監視者にせず、一緒に連れて行った?そして、なぜ接続をそのままにして、朝まで戻らなかった?」

 

 オレは、ガクガクと全身の震えが止まらなかった。いつの間にか、オレの正面に来てしゃがんでいた学長は、オレを下から見上げながら、話を続ける。

「最近のネズミどもは本当に賢い。探知網セキュリティにかかるのがあと少し遅ければ、どうなっていたか聞きたいか?」

「……」

「根を張り直すまで、どれだけの時間とコストがかかるか知りたいか?」

「……」

「私が何件の取引先にをしなければならないか教えてやろうか?」

「……」






 ダメだ……オレは責任の重圧に押しつぶされそうだった。しかし、これだってレイラに責任の半分はある。だが、これ以上余計なことを言ってわけにはいかないと思ったのだ。

「学長……すみません、オレ……」


 続ける言葉が見つからず、黙り込んだまま震えるオレの肩を、学長はポンと叩いた。




「だが、起きてしまったことは仕方ない。学生は存分に過ちを犯し、そして学ぶものだ。……大昔には、超巨大なサイズを転送しようとオーバーキャパシティして、複数の根を巻き込んで爆散させた輩もいる。それに比べればマシな方だ」

 学長はコツ、コツと歩きながら、優しく、落ち着いた声で続けた。


「さすがに相応のペナルティは受けてもらうが、道が閉ざされた訳ではない。今後の進路については、謹慎中に頭を冷やしてから、焦らず自分で考えるといい」

 机に戻った学長は、ギィッと椅子に座ると、次の便箋を取り出して、詫び状の書き綴りを再開した。





 学長マジあったけぇ……オレは安心感から、ようやく涙が溢れた。




 ……しかし、ペンを走らせながら、学長はニヤッと笑うと、こう付け加えた。

「煌びやかな街に浮かれて、だった事自体は、学園としては咎めるつもりはない。ただ、の責任も取るべきだろうな」


 ……全部お見通しかよ。いっそ殺してくれ。


「私からは以上だ。他に何か聞きたいことはあるか?」

「いえ、マジ大丈夫っす……スンマセン、マジ

ありがとうございました」


──オレはゴシゴシと腕で顔を拭うと、キュッと立ち上がって学長に会釈をし、逃げるように走って学長室を出ていった。






「……目をつけられなければ良いが」

来客のいなくなった学長室に、ポツリと言葉が漏れた。

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