第6話 頂点

 ──暖かな日差しを顔に感じて、目が覚める。

 なんだか悪い夢を見た気がしなくもないけど……それを覆すほどの、気持ちいい目覚めだった。


 ボクはいつの間にか、大きなフカフカのクッションの上に寝かされていたようだ。ふわぁぁ、とあくびをしたボクは……そばに落ちていた、大きな灰色の羽根を見て、何故だかゾワっとした。



 キョロキョロと辺りを見回すと、ここは大きな丸い広場だった。あちこちに乱雑にクッションが敷かれていて、何人もの子供がその上で寝ている。

 そして、広場をぐるっと囲んでいる柵のむこうには、全方位どこまでも空が見えた。


 ボクはうんしょっ、とクッションから降りる。と、冷たい木の感触がペタッと足裏に触れた。……ちめたい。クッションの横においてあった、多分ボクの……だと思う靴を履くと、寝ている他の子をチラチラ見ながら、端の柵まで近寄ってみた。



 覗き込んでみると、真下は枝葉が邪魔して見えなかったけれど──遠く、遥か下には、雲が見えた。

 雲の上でも、ただでさえ高かったのに。ここは更に上──きっと、昨日見た大樹の天辺なんじゃないか、と思った。もしかしたら、世界で一番高い場所かもしれない。





 下からチュンチュンと鳴き声が聞こえる。こんな高いところにも鳥がいるようだった。

 ボクが鳥を探して枝葉を眺めていると、突然、グイグイと後ろから服を引っ張られた。


「ねぇ、キミもいっしょにあそぼ!」

「ふぇっ?」

 僕と同じくらいのコだった。引っ張られるままついていく。


 いつの間にか、みんなだいたい起きていた。ボクをひっぱってる子は、いくつかクッションを集めてその上で飛び跳ねて遊んでいる集団へ向かっているみたいだった。

 モフッモフッと跳ねながらキャッキャッと笑うみんなは、とても楽しそうで……ボクはウズウズした。




 ──そこへ突然、

「みなさーーーん、おはようございまーーーすっ!」

 と、どこかから大きな声が響き渡る。

 声の出処がわからず、みんなキョロキョロしていると、ドォン!と何かが広場の端っこに降ってきた。


 ……着地点にあったクッションが豪快に弾け、羽毛が舞い散る。鼻をくすぐられたのか、近くにいた子がクシュっとくしゃみをした。


 落ちてきたのは、頭から長い耳ウサミミを生やした女の人だった。着地姿勢のままぷるぷる震え、涙目になっている。



 続いて、ふわりと降りてきたのは学長だ。何故か宙に浮いたままで止まる。


「キコが落としたんじゃあないですよぉ〜、クイーンがぁ勝手に跳んだんです〜」

 最後に、パタパタと背中の翼を羽ばたかせながら、ふわっとした感じの女の人が降り立った。




 みんなの視線がその3人に集中する中、学長は大きく腕を開くと、力強い声を響かせた。

「よく来てくれた、未来の大魔導士達よ!!お前達は、本日より“グドラシエ”の家族だ!──友と共に暮らし、学び、競い、そして立派な成鳥となって、大空へと巣立って行ってほしい!」


 ──お腹の中まで響く大きな言葉に、ボクは高鳴る鼓動を感じながら、ぎゅっと拳を握った。


「……とはいえ、お前達はまだ右も左もわからないタマゴだ。無事にヒナとして孵るまでの間、世話役をつける。親だと思って存分に頼るといい。……キコーニア」

「……ぁ、はい〜、私はキコーニア=クレルスと言います〜。キコ先生、って呼んでくださいねぇ〜」


 キコ先生は、にっこりと笑って手を振る。とても優しそうだ。……あれ、手?……何か、違和感を感じた気がした。


 キコ先生の自己紹介が終わったのを見計らい、学長が話を続ける。

「もう一人、スクートというデカい男がいるんだが、そいつは下で待っている。あとで挨拶しておくといい」

 デカい男の人。ボクの頭にはお父さんの顔がよぎった。怖い人じゃないことを祈ろう……





 続いて、学長はその真っ黒なローブの裾から、じゃらり、と銀色の板が入ったカゴを取り出した。

「では、皆にタグ階級章を──」

「ちょ、ちょっと待ってくださーい! はい、はーい! 私です! 私は!? 私まだ挨拶してませーん!」


 ピョーンと跳んで割り込んできたのは、うさみみの人だった。

「何だクイーン。ちょうど今、働かないウサギを牧場に戻そうかと思っていたところだ」

「ひどい! タイミング逃してただけです! ほらほら、タグだって配りまーす!」


 そういうと、ピョンと跳んで学長からひょいとカゴをかっさらうと、ピョンピョンと跳ねまわりながらみんなに1個ずつタグを配って回った。あっという間だ。

 そして得意げにフンッ、と鼻を鳴らすと、息を大きく吸い込んで、大声で宣言した。


「私はもう、クイーンじゃありませーん! 私は、生まれ変わったんでーーーす!! 私のことは!……えー、……そう! うさぎ先生!! うさぎ先生って呼んでくださーい! みんな、よろしくねーーーっ!」



 ポカンとするみんなの中、うさぎ先生は、一人だけ満足げだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る