一話/夜 その①

「っ………ぁ………?」

何が。

起こったのか判らない。

足が地面に届かない。

お腹が凄く痛い。

痛い。

頭の中で言葉にしたら、なおさら辛くなった。

意識が飛びそうだ。

太い緑色の針みたいなのが、お腹に刺さっていた。

白い夏服のセーラーに、赤黒い染みが広がっていく。

「げぽっ、ごぶっ」

口からも血が出た。

鼻からも。

床に落ちる。

足を血が伝う感覚がする。

やば。

すごい。

こんなに血が出るの、はじめてかも。

死ぬのかな。

死ぬの?

なんでかも、わからずに?

くらくらする頭を必死に持ち上げて、目を取れるんじゃないかって位に見開いて、前を見る。

そこには、長い金髪を頭の後ろで結んだ、チンピラみたいな男の人がいた。

右手の袖口から出ているツタみたいなやつが、私を刺していた。

教室は血塗れだった。

沢山のクラスメイトが、重なるように倒れていて。

みんなお腹に穴が空いていた。

「んん?」

首をかしげる男の人。

指折りして何かを数えている。

「先生はやったし、数が合わねえな。あと一人来んのか?」

しおりんの事だ。

何考えてるんだ、こいつ。

しおりんも殺しちゃうのか。

一体何のために。

「…か、は」

「あー、喋ろうとすんなよ。キツいぜ?」

にやけてそんな事を言う。

「俺だってこんな事したくねーよ。ああいや嘘だ、ずっとやりたかった。ごめんな嘘付いて。わざとじゃないんだぜ、癖なんだよ癖。言い訳する悪い癖なんだ」

あくまでへらへらと、言う。

「いやでもさ、自発的にやったんじゃねえんだよ。ちょっとしたきっかけができてさ…あ、聞きたい?」

「ひぇ…っ?」

後ろから裏返った声がした。

しおりんだ。

しおりんが来たんだ。

首は回らないけれど、もうがくんと垂れてしまったけど。

しおりんが。

しおりんも、やられる。

「ぐう…うっ」

手を出すな。

やめろ。

お願いだから、やめてください。

友達だけは。

しおりんだけは。

「お、緩そうなJKみっけ」

ひゅんっ。

ものすごい速度のつたが、私の横を飛んでいった。

あ。

ああ。

なんで。

やめてって、言おうとしたのに。

目が霞んだーーー涙だった。

頭がぼうっとしてきて、痛みが消えていく。

全部がどうでも良くなっていく。

天井と床が混ざり合っていく。

気持ちいい浮遊感がして、そうして次第に目の前がーーー真っ黒になった。

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オールドマンミーツガール:Side NIGHT 凄井良人 @hohotigiruzo

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