新たな仲間、妖狐族追加入ります

「あっ、妖狐族みっけ」


 アリエスタからの帰り、冒険者ギルドで報酬を受け取ったボクは、近くの屋台で尻尾を振りながら焼き鳥を頬張っている妖狐を発見したのだ。


「今まで妖狐族のプレイヤーを見かけることなんてなかったからちょっと珍しいかも」

「うにゃ? どうしたのかにゃ?」

「あっ、音緒。ほら、あれ見てよ」

「うにゃ? あののんきな感じで尻尾を振っているのは間違いなく妖狐族にゃ。美味しいものを食べる時必ず尻尾を振る癖があるからにゃ」

「えぇ!? そうなの!?」


 音緒は当然のようにそう言うけど、ボクにはそんな覚えは一切なかった。

 美味しいものを食べてる時に無意識に尻尾を振っているだなんてそんなバカな……。


「言いたいことはわかる。スピカも尻尾振ってるから」

「えぇっ!?」


「そうですね、たしかにご主人様は妖狐の姿をしている時は尻尾を振っていますね」

「そんな!?」


「先日もコテージ内でぶんぶん振ってましたよ? 気が付きませんでしたか? スピカ様」

「そんなの知らないよ!?」


 みんな、ボクがいつも尻尾を振っていると口を揃えて言う。

 百歩譲って振っていたとしよう。

 でも、あそこの屋台にいる妖狐族のように露骨に、そして激しく尻尾を振っているだろうか!?

 否! 断じて否なのである!!


「いくらなんでもボクは、あそこまで露骨にはしないよ」

「してるにゃよ?」

「ぐむぅ……」


「ところで疑問。スピカは何で急に尻尾を振っているという話をした?」

「ほえ? だってあそこの屋台に尻尾を振っている人いるでしょ?」


 ボクが指を指す先、焼き鳥を売っている屋台の前には未だに尻尾を振り続けている妖狐の姿があった。

 しかし、なぜかフィルさんは首を傾げて悩んでいる。


「人間は見える。けど、尻尾が付いている人はいない」

「そうですね。たしかに見えませんね。でも、ご主人様が見えるというからには見えるのでしょう」

「う~ん? どうなってるの?」

「さっぱりにゃ。あっ、でも、変化した妖種を見破れるのは陰陽師か妖種だけって昔から言うにゃよ?」

「あっ」


 ボクと音緒以外には見えない尻尾の正体に今気が付くのだった。

 そう、変化した妖種を見破れるのは陰陽師もしくは同じ妖種だけなのだ。

 そうか、どうりで他の人からは見えないわけだ。

 と、そんなことを考え一人で納得していると――。


「あー!! 妖狐族!!」


 突如屋台のある方向からそんな声が聞こえてきた。

 そして――。


「いやー! 奇遇なのです!! 私は新規で始めた妖狐族の『まつり』というのです!! 同族にお会いできるなんて光栄なのです!!」


 ボクにぎゅっと抱き着く黒髪の小柄な妖狐族の少女まつり。

 まつりはボクの顔を見ながら嬉しそうにニコニコ笑ってみせるのだった。


「ま、まぁ落ち着いてよ。一応このゲームにも少数だけど妖狐族がいるって話は聞いてたんだけど、実際に見るとは思わなかったからボクも驚いてるよ」


 街中には妖狐の姿をしたプレイヤーもそれなりに存在しているけど、その人たちは大体が現実では人間種のプレイヤーなのだ。

 正真正銘の妖種というのは不思議とお互いに分かるもので、クラマさんやケラエノやエレクトラといった天狗族や音緒のような猫又族なども出会った瞬間に分かった。

 同じ姿をしていてもピンと来ないのは正真正銘の妖種ではないからということになる。

 ゲーム内なのに何でこんなことが分かるのかは不明だけど、そういうセンサーがあるのかもしれない。


「嬉しいのです!! 実はですね、今日始めたばかりでして。お友達もいなくて困っていたのです。ナンパはされるんですけど、そういうのは要らないので丁重にお断りしてばかりいたのです」


 引っ付いてくる黒髪の妖狐族のまつりちゃんは、目が大きめでクリッとしていて可愛らしい。

 好奇心旺盛そうな黒い瞳は今もボクをじっと見つめていて離さない。

 小柄と言いつつも、ボクよりやや身長が高いので百五十センチほどはあるのだろうけどね。

 年齢は不明。

 幼い印象は受けるけど、妹ほどではなさそうだった。


「えっと、どんな職業を選んだの?」


 とりあえず目の前の少女にボクは問いかけてみる。

 助けるにしても必要なのは職業などの情報だからだ。


「はい、今は妖刀士見習いなのです。やがては退魔刀士を目指したいのです!!」


 元気いっぱいにそう宣言するまつりちゃん。

 はて? 退魔刀士ってなんぞ?


「ねぇまつりちゃん。退魔刀士ってどんな職業なの?」

「はいなのです。退魔刀士というのは、刀術に特化した陰陽術系統と同じ浄化の力を持った刀士なのです。『封魔』とかそういう風に言えばわかると思うのですが……」

「なるほど。妖狐族の特性を生かして後衛の陰陽術方面じゃなくて前衛のほうに特化させたタイプなのかぁ」

「そうなのです!! 刀でずばばば~んと敵を倒して、きゅ~っと封印をするのが夢なのです!!」


 まつりちゃんは擬音満載な表現をするけど、言いたいことだけは身振り手振りからよく伝わってきた。

 これあれだ、大和とか苦手なタイプの職業だ。


「ふぅん? 面白そうだね。よかったらボクたちと一緒にレベル上げしたりしない? 一応拠点もあるしさ」

「いいのですか!? それはとても嬉しいのです!! ナンパしてくる人間種さんにはほとほとうんざりしていたのです」


 嬉しそうに瞳を輝かせて食い気味にそう言うまつりちゃんは、その尻尾を激しくぶんぶんと振っていた。

 これはあれかな? ケモナーの人たちにしつこくされたのかな?


「もしかして、ケモナーの人たちに何かされた?」

「ケモナーってなんなのです? よくわからないのですが、ずっと人化していたので妖種とはわからなかったと思うのです」

「あっ、そうか」


 ボクは失念していた。

 ボクたちには見えるけど、今のまつりちゃんは人化している最中だったのだ。

 つまり、今も激しく振られている尻尾は人間たちやNPCたちからは見えないのだ。

 人化を解いた状態なら見ることはできるんだけどね。

 その証拠に、現在も振られている尻尾はややうっすらと透けて見えている。


「にゃっはっはっは~。スピカにゃんはやってしまったようだにゃ? いつも自分からは見えないから気が付かなかったようだにゃ」

「くそぅ。音緒め。音緒はいつも堂々と耳も尻尾も出してるけど、じっと見られるのは嫌じゃないの?」

「別に大丈夫にゃ。お触りは厳禁だけど見るくらいなら許してるにゃ。そうでなくてはアイドルはやってられないにゃ」

「猫又さん、アイドルやってるのですか!?」

「猫又じゃないにゃ! 可愛い可愛い猫獣人さんにゃ」

「えっ? でも、どう見ても猫又なのです」

「まぁまぁ、まつりちゃん。本人はそう言い張ってるだけだから。アイドルっていうのも自称だから気にしないでいいよ?」

「そうなのですか? でも、堂々としていらっしゃるのでとってもかっこいいのです!!」

「にゃふふ~。見る目あるにゃん」


 純粋なまつりちゃんに褒められ、とても嬉しそうな音緒はその小さな胸を大いに張って笑っていた。

 尻尾もゆらゆらとしていて、ご機嫌そうである。


「それじゃあとりあえず拠点に案内するから一緒に行こうか。これからよろしくね? まつりちゃん」

「はいなのです!! 猫又さんも、エルフさんもちょっと変わったお姉さん二人もよろしくなのです」

「よろしく。フィルと呼んでいい」

「よろしくにゃ。私は音緒にゃ」

「よろしくお願いします。スライムの精霊のミアと申します」

「よろしくお願いしますよ~! スピカ様の守護天使のルーナですよ!!」

「今更だけど、ボクはスピカだよ。同じ妖狐族だけど、天狐種ね。よろしく」

「えぇっ!? 天狐種なのです!? 恐れ多いのです!!」

「あはは、大丈夫だよ。これから一緒にがんばろうね」


 天狐種と聞いて土下座しそうになるまつりちゃんを引き留め、ボクはまつりちゃんの見えない狐耳の先っぽを軽く口で咥える動作をした。


「あっ……」

「これで家族だね」

「あぅぅぅぅ。はい、なのですよ……」


 まつりちゃんは顔を真っ赤にして小さくなってしまった。

 妖狐族にとって狐耳の先っぽを軽く口で咥えるのは親愛の証になる。

 男女の場合は告白と同義になることがあるので要注意ね?


「新しい妖狐族が仲間になって、もふもふさもアップしたし、今日は良い日になりそうだよ!!」

「はいなのです!!」


 ボクとまつりちゃんは仲良く並んで拠点への帰り道を歩いていく。

 その後ろでは、仕方ないな~といった雰囲気の音緒を始め、色々な感情を宿した表情をしている仲間たちがついてくるのだった。

 ボクはそれらをちらりと見ながら、今後のことを考えていた。


 ゲーム内も陽が暮れようとしているけど、現実ももう夕方を過ぎていた。

 そろそろログアウトしなきゃね。

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アルケニアオンライン~昴のVRMMOゲームライフ。冒険生産なんでも楽しみます。 じゃくまる @jackmarumaru

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