スピカ、精霊核を入手する
しばらく休憩した後、地下に戻ってアリエスさんへの報告が完了した。
村の周囲は汚染から解放されているけど、農業ができるほどの範囲はないかもしれない。
「す、凄まじいですね。まさか空まで綺麗になっているなんて……」
「日々の実験の賜物ですね。次はもっと広げたいですけど、ちょっと実力が足りていません」
地上にやってきたアリエスさんは晴れ渡った空を見て呆然としていた。
その横でボクはえっへんと胸を張っている。
さぁ、褒めて撫でるといいよ!!
「ご主人様、そんな顔なさらずとも……」
「スピカ様のドヤ顔可愛らしいです! なでなでなでなで~」
「えへへ、さぁもっと撫でていいよ?」
「仕方ない人ですね。スピカさん、ありがとうございました」
ルーナに頭を撫でられボクは満足。
そこに苦笑したアリエスさんが加わり、二人でボクの頭を撫で擦ってくる。
一仕事を終えた後のなでなではなかなかに心地いい。
でも、普段はそうそう許したりはしてあげないけどね。
今日はた・ま・た・ま気分が良いからね!!
「スピカにゃんご満悦にゃ」
「たまにはこういうのもいいよね!」
「気を許していない時に撫でられるのは嫌にゃ」
「音緒ってそういうところは好き嫌い激しいよね。猫みたいだ」
「猫だからにゃ。当たり前のこと言わないでほしいにゃ」
撫でられているボクを横目に見ながら音緒がそんなことを言ってくる。
まぁボクだって気を許していない時は撫でられたくはないから、同じといえば同じだけどさ。
「スピカさん、浄化のお礼といってはなんですが、これを受け取ってください」
アリエスさんはそう言うと、精霊樹の精霊核をボクに渡してきた。
精霊術師しか使えないという精霊核だから、ボクには使えないと思うけどね。
「フィルさんなら上手く扱うことができるでしょう。スピカさんの浄化の力と合わせることで色々と面白いことができるかもしれません」
「精霊核、新しい素材。分裂させたら試したいことたくさんある」
ボクが受け取りフィルさんに手渡す。
フィルさんは嬉しそうににっこり微笑みながら大切そうに精霊核をしまった。
可愛らしい笑顔をするなんて、相当嬉しかったんだなぁ~と、その笑顔を見ながらボクは思っていた。
普段無表情なくせに、たまに可愛いから困った子である。
「そうですね。エルフでも精霊核については詳しく分かっていません。アニエス国であれば大問題となる可能性はありますが、この辺りでなら問題はないでしょう。もし調べたいなら、精霊の郷などで許可を得るのがいいでしょう」
「心当たりある。スピカが懇意」
「そうなのですか? さすがですね。精霊の郷は我々ですら簡単に受け入れてはくれないのですよ」
「そうなんですか?」
「はい。我々のうち、郷に入れるものはごくわずかだと言います。それも精霊の郷の長が許可した者のみだとか」
精霊の郷、ボクたちの知っている場所といえばマタンガの集落だ。
そこの長はゴルドさんだ。
ゴルドさんの説明では、何らかの手段でフィルさんのようにゴルドさんたちに許可を出してもらえれば入ることができる。
今回はボクたちプレイヤーの頼みで許可が出たことを考えれば、フィルさんは運が良かったのかもしれない。
「精霊の郷は神々の使徒または助力を要請されたもの以外は基本的に受け入れません。フィル様の場合はご主人様の頼みで許可を得ることができました。ただ、それでも例外的にという但し書きが付いてしまいますけど」
「せっかく得たチャンス。これを機にいろいろ研究する。スピカに付いてきて正解だった」
「ストーキングされてたような気がするんですけど……」
フィルさんは拳をぐっと握り、気合いを入れていた。
ただしその顔は無表情である。
でも、どことなく気合いに満ち溢れているような気がしたので、ツッコむのは止めておくことにした。
「さて、聖杯を小聖堂に戻しましょうか。これで地上でも暮らせるはずです」
「そうですね。地下に持ち込む必要ももはやないでしょうから」
ボクたちは聖杯のレプリカを持って小聖堂へと入っていく。
さすがに建物は汚染を浄化しても壊れたままなので、少し気味が悪いなとは思ってしまう。
それでも昼間なので陽が差し込んできて明るいんだけどね。
「それじゃ、聖杯を天使像にセットしますよ~?」
ルーナが聖杯のレプリカを受け取り、天使像の手に持たせる。
すると、天使像が一瞬青白く光り、聖杯の底からきれいな水が湧きだし始めてきた。
「うん、問題ないようです。これで湧き出た浄化の水が村の周囲に行き渡り、村を守ってくれるでしょう。もし、この村を大きくしたい場合は言ってくれれば対応するように改造しますからね。ただ決して、勝手に大きくしてはいけませんよ? これは約束してくださいね」
珍しくルーナが真面目な表情でアリエスさんにそう告げる。
もし無許可で大きくしてしまったらどうなるのだろうか。
「ねぇ、もし無許可で拡大した場合ってどうなるの?」
ボクは好奇心のままにルーナにそう尋ねた。
するとルーナは困った顔をしながら「村が守れなくなります」とだけ言った。
村が守れないっていうのはどういうことなんだろう?
ちらりとルーナに視線を送るものの、ルーナは困った顔をするばかりだった。
「フィルさんは何か知ってる?」
「ん~。詳しくは知らないけど、街作りは必ず聖堂やに届け出る必要がある。だからまず、領地を貰ったら聖堂にそのことを届け出るのが先になるらしい」
「ふ~ん」
現地の人に聞いてもそれしかわからないなら、たぶん知っている人はほとんどいないんじゃないだろうか?
聖堂の人に聞いても教えてくれないか、もしくはわからないかのどちらかだろう。
「スピカ様? 私からそのことを告げることは禁止されているので言うことはできませんが、スピカ様のお母様にお尋ねすれば聞けるかもしれません」
「なるほど! その手があったか!!」
お母さんに聞かなければだめということは、システムに関わることなのだろう。
ならログアウトした時にでも尋ねることにしようかな。
「よし、ここでの作業も終わりか。一度戻って換金とかルードヴィヒさんたちにも報告してこなきゃね。心配してるだろうし」
「そうですね、それが良いと思います」
「さすがに少し疲れたにゃ。換金したらどのくらいのお金になるか楽しみだにゃ~」
「音緒様は戦いのときに頑張っていましたからね。ゆっくり休んでください」
「ん。音緒偉い。尻尾撫でてあげる」
「やめるにゃ!? 尻尾触られるとゾクゾクして嫌なのにゃ!!」
「ほー。良いこと聞いた。あとで触り倒してやる」
「スピカにゃんの鬼! 悪魔!!」
「鬼は大和たちでしょ~? ボクは狐だよ~?」
音緒はフィルさんのお触り攻撃を素早くかわすと、ボクの側にやってきて袖を掴みながら懇願するように言ってくる。
「あのエルフっ子怖いにゃ! スピカにゃん、早く帰るにゃ!!」
「あはは。しかたないなぁ~。それじゃ、ボクたちは一旦戻りますね。またそのうち来るので、その時は案内よろしくです」
「わかりました。本当にありがとうございました、スピカさん」
「また、くる」
「またなのにゃ」
「それでは失礼いたします」
「それじゃあ帰りましょうか。羽根も伸ばしたいですし、洗いたいですし」
ルーナがボクより前に出て先導するように歩いていく。
さてと、まずはお金の換金が先かな~。
とりあえずボクたちはメルヴェイユの街を目指して歩いていくことにした。
その途中、詰所の聖堂騎士さんたちに村のことを報告したところ、大変驚かれたけどね。
なんでも追加の報奨金を用意するって話だから、ボクたちの懐はさらに潤いそうだ。
でも、大半はルードヴィヒさんに預けるんだけどね!!
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