VRMMOで探偵はじめました。~Q.浮気調査もお願いできますか? A.灰色探偵事務所がどんな依頼も解決しますッ!~
第44話『VRMMOで探偵はじめました。 灰色探偵事務所がどんな依頼も解決しますッ!』
エピローグ
第44話『VRMMOで探偵はじめました。 灰色探偵事務所がどんな依頼も解決しますッ!』
会長を決める戦いが終わった、その日の昼下がり、僕の部屋まで、ドタドタドタとまるで怪獣でも訪れた様な大きな足音と共に女々が現れた。
「ねぇ、エルク見てよッ!」
ニョニョが僕に向かって突き出したのは、携帯端末、その画面にはネットバンクの通帳残高が表示されていた。
一、十、百、千、万、十万……。
「……百万」
「そうよ! 正確には百十五万三千円。経費もろもろ払っても百万は余裕で残るわ」
「ということは」
「ええ、看板が出せるわッ!! まさかこんなに早く実現するなんてッ!! もう看板になんて書くかも決めてあるのッ!! これも全部エルクのおかげよ!」
満面の笑みの女々に僕は首を振る。
「違うでしょ。僕だけじゃ、やっぱりこんな額は稼げなかったし、そもそも働く気さえなかったわけだから、この金額は女々のおかげだよ」
「なら、2人の成果って事ね!」
屈託ないその表情に僕もつられて頬を緩ませる。
「そうだね。僕らで灰色探偵事務所なんだから」
ニョニョは携帯端末を仕舞うと、不意に僕の顔を覗き込む。
「クマがすごいわよ」
熊? いや、隈かっ!
「ちゃんと寝ないとダメよ。幸い今日は何も依頼はないし、百万貯まった記念よ!」
そう言うと女々は僕の部屋で、正座をすると、膝の上をぽんぽんと叩く。
「え? どういう事?」
「どういう事って膝枕よ? 知ってるでしょ?」
「いや、知ってるけど……」
CTG内ですら恥ずかしいのに、リアルでなんて無理だろッ!!
僕はズリズリと後退り、女々から距離を置くと、女々の表情は途端に悲しそうになり、うつむく。
「そっか、そうだよね。あたしの膝枕じゃイヤだよね」
悪ふざけなしで、本当に女々は悲しそうにし、目からは一粒の水滴。
「いやいやいや、全然イヤじゃないッ!! むしろ嬉しすぎて、現実かどうか疑っただけだから。ちょっと今から確かめるからッ!!」
僕は自分で自分を思いっきり殴る。
スコーンッ!! と綺麗に思った以上に強く入った自分の拳で、僕はよろめくと、そのまま倒れる様に女々の膝へと吸い込まれる。
女々の膝は、肉付きがない、スラッとした足な為、寝心地は良くはないけど、脳が揺れた為かはたまた寝不足だからか、僕の意識はすぐに夢見心地へと落ちていく。
「もう寝そうなのね。気にいってくれた様で何よりだわ。たまには嘘泣きもしてみるものね」
女々はそう言うけど、あれはどう見ても本物の涙だった。
18年一緒に居るんだから、見間違えるはずはない。
今だって顔が紅潮していて、完全に泣いた後の様だ。
まずい、眠い……。
そのまま、僕はゆっくりと眠りへと落ちていく。
そんな中、ぼんやりと何か聞こえて来たような気がした。
「エルク、いつもあたしを助けてくれてありがとう。表立って助けてくれたのは、中学のときだけだけど、その前から、人知れずあたしを助けてた事知ってるんだから。これはそれも踏まえてのお礼よ……」
※
膝枕をされ、眠りへと落ちたあの日から数日後。
僕はティザンとして、CTGへログインしている。
そして、僕は頭上にそびえる電光掲示板を見上げている。
隣にはニョニョが居て、一緒に見上げている。
「いよいよね」
ニョニョが興奮を隠し切れない様子で、思わず声を漏らす。
気づくと、側にはニョニョだけじゃなく、スティングやアリー、ゴビーまで見に来ていた。さらには各ギルドのメンバー達も居り、かなりの大所帯だ。
そして、誰も何も言わず、
僕も再び上を見ると、そこに巨大な電光掲示板。
そして――。
そこには、僕ら灰色探偵事務所の看板が映し出された。
大音量な歓声が上がった。
現実の顔すら知らない人達が僕らを祝福してくれている。ただの音声データだと言われてしまえばそれまでだけども、それでも、これが、ここで僕が手に入れた掛け替えの無いモノなんだッ!
いつの間にか涙が零れている。
「――あっと」
拭おうと手を動かしたそのとき、ふっとニョニョの手が触れた。
ニョニョも僕同様に瞳に涙を浮かばせている。2人で見つめ合ってから、フッと笑顔が溢れ出す。
僕らはどちらともなく、お互いが手を握った。
きっと僕らはこの時の看板に映された文字を忘れる事はないだろう。
『VRMMOで探偵はじめました。 灰色探偵事務所がどんな依頼も解決しますッ!』
この文字を、僕は一生忘れない。
(了)
VRMMOで探偵はじめました。~Q.浮気調査もお願いできますか? A.灰色探偵事務所がどんな依頼も解決しますッ!~ タカナシ @takanashi30
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