後編

 数日が過ぎて、週末がおとずれた。結の後を追っていると。


「なぜ、貴方がいるのですか」


「うん? 面白そうだからだよ」


 匠馬がいた。


「ほらほら、はやくしないと見失っちゃうよ」


 結たちは店へ入っていく。あわてて後を追いかけた。匠馬も何故か一緒だけれども。

 店内は女の子らしい雑貨であふれていた。しかし菅原ルートで、こんなのあっただろうか。前世の記憶がすべて戻ったわけでもないし、このゲームのタイトルすら出てこない。


「出て行くみたいだよ」


 匠馬にささやかれ、私は二人を追う。結の手には買い物袋が握られている。なにか買ったのだろうか。それとも買ってもらったのだろうか。

 次に二人が向かったさきは、喫茶店だ。仲睦まじくドリンクを飲んでいる。パンケーキが運ばれてくれば、結は目を輝かせた。ため息とともに私は、我知らずうちにつぶやく。


「はあ、かわいい」


「うんうん、かわいいね」


 匠馬も攻略対象であるし、結をねらっているのかとにらむ。


「違うよ。結ちゃんじゃなくて、君がだよ」


「そんなこと言ったって知ってるんですよ。結は世界一かわいいから、皆がねらうのもわかりますし」


「うーん、本当なんだけどなあ」


 騙されてやるものか。私を当て馬に使うつもりに違いない。


「ご注文のフルーツたっぷりパンケーキをお持ちしました」


 あれ。私は頼んでないぞと考えていると、匠馬が注文したらしい。パンケーキなんて食べていたら、二人を見失ってしまうではないか。


「はい。あやはちゃん、あーん」


 反射的に口を開けてパンケーキを食べてしまった。


「美味しい?」


「はい。美味しいです」


 口の中で甘酸っぱい味が広がる。結を見ると、パンケーキを堪能していた。口の周りにクリームをたっぷりとつけて。すかさず菅原先輩がテーブルナプキンで、拭いてあげている。さすが乙女ゲー。べたべたなシチュエーション。


「あやはちゃん、こっち向いて」


 呼ばれて匠馬に視線を向けると、同じように口元を拭かれてしまった。胸が早鐘を打っているけれども、これは気のせい。勘違い。私は何度も言い聞かせた。


「ふ、拭いてくれなくても、教えてくれたら自分で拭くのに」


「僕が拭きたかったから」


「へ、変よ。ぜったい変。好んで人の口元を拭く人がいるもんですか」


「好きな人だったら、いいと思うでしょ」


 そんな言い方をすれば、女性が落ちると思っているのか。胸の音に気づかないふりしてキッとにらみつけたが、ちっとも効果が無かった。それどころか、匠馬はほほえんでいる。簡単な女だと思われているみたいで悔しい。


「あれ? 結ちゃんたち、いないね」


 視線を走らせると、たしかに姿が無い。会計を済ませて外へ飛び出したが、まったく見つからなかった。しかたなく寮へ戻る。少し経って結たちが戻ってきた。二人は弾んだ声色で会話をかわしてから、かるい足取りで部屋へ戻っていく。菅原ルートは確定だろうか。

 休日を終えて平日にもどると、結は匠馬ともなにやら話している。まだ共通ルートなのだろうか。あやしみながら、物陰から二人の様子をうかがう。断られるの覚悟で尋ねてみるべきか。今は声をかけずに後から訊いてみるべきか。うろうろしていると、声をかけられた。


「気になるの」


 匠馬だった。


「教えてくれるの?」


「うん。好きな人のお願いだったら、きいてあげちゃうって言いたいけど。ごめんね。教えられないんだ」


 簡単にはいかないか。自分で調べると決めて私は、間者として聞き込みを開始する。誰も彼も何かを知っている風であるのに、言葉を濁して話したがらない。

 肩を落として放課後、結と寮へ戻る。一人になると、どこかに躰を潜めていた匠馬が姿を現した。


「何かつかめたかな」


「ぜんぜん。誰も話してくれなかった」


「そっか。ちゃんと約束、守ってくれてるんだ」


 不信感を募らせ、私は匠馬に詰め寄る。


「なに、その意味深な台詞は」


「なんでもないよ。そうだ、今週の土曜日って暇?」


「予定は無いけれど」


「じゃあ、決まり。僕とデートね」


 勝手に言ってさっていく。


「私まだ行くって言ってな……いないし」


 けっきょく土曜日に私は、匠馬に付き合わされることになった。雑貨や小物を見るだけだったが、けっこう楽しくて私は悔しい。夕方頃になって寮へ戻ると、火薬音がひびき紙テープや紙吹雪が舞う。


「誕生日おめでとう!」


 すっかり忘れてた。今日は私の誕生日だったんだ。


「これプレゼント。菅原先輩と選んだんだよ」


 先週の買い物はそれだったのか。うれしさで目頭が熱くなる。


「みんな、ありがとう!」


 結が恋に目覚めるのは、まだ少し先のようだ。

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【前後編】好きなキャラだけど、当て馬なんてごめんだから全力で回避する! 草宮つずね。 @mayoinokoe

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