【前後編】好きなキャラだけど、当て馬なんてごめんだから全力で回避する!
草宮つずね。
前編
その日。私は唐突に思い出した。ここが乙女ゲームの世界であることを。
*
桜田学園高等部二年生、
メインヒーローは、三年の
攻略対象ではあるけれどもサブヒーローといった立ち位置なのが、智之の親友であり、前世の私が一番好きだったキャラ。
続いて後輩キャラの
それで私の名は、熊崎あやは。主人公の親友ポジで匠馬ルートでは当て馬になり、あっけなく振られる役回りだ。
いくら同じ世界に生まれることが出来たとしても、振られる役回りなんてあんまりだ。……私は当て馬だけは回避しようと、間者として動き始めることを決意した。
「あやは、どうしたの?」
結がかわいらしく小首をかしげて見つめてきた。
「ううん、何でも無いの。帰ろう」
今は放課後だった。結に怪しまれないようにしないと。
いつもどおりの道を通って寮へ戻る。桜田学園には寮があるのだ。全寮制というわけではなく、遠くから通う人のみが暮らしている。私と結、攻略対象たちは皆、寮暮らしだ。
「やあ、おかえり。補習だったんだって?」
さわやかスマイルを振りまいて、菅原先輩が話しかけてきた。私と結は、声をそろえて「はい」と答える。
「そっか、大変だったね。寮母さんがクッキーを焼いてくれているよ」
喜びを二人して躰全体で表現して寮へ入った。男女共同の食卓スペースでは、宗太君がほおを膨らませてクッキーを食べてる。となりでは、智之と匠馬が座って待っていた。もしや、結を待っていたのだろうか。
「結、あやはちゃん。はやく手洗いうがいを済ましておいでよ。宗太に全部食べられてしまうよ」
智之の言うとおり、この勢いではあり得そうだ。
促され二人して洗面台へいき、済ませると食卓についた。ようやく智之と匠馬もクッキーに手を伸ばした。お茶は寮母さんが注いでくれた。
「美味しいです。寮母さん」
匠馬のやさしいトーンの声が私の耳をくすぐる。生イケボに酔いしれてしまったが、頭を軽く振る。さっき間者として活動すると、決めたばかりではないか。
「やっぱり、体調悪いの」
結が私の顔をのぞき込む。乙女ゲーの主人公だけあって、顔立ちがいい。あまりの尊さに祈りそうになったが、ぐっとこらえる。
「ううん、何でも無いんだよ。本当に」
と、答えるのが精一杯だった。
その後。夕食中も、部屋へ戻る途中でも、結は心配げに私に声をかけてきたのだった。可愛い仕草つきで。天使か。天使なのか結は。
前世でも私は確か、ゲーム中の結が大好きだった気がする。愛する男性のために、行動を起こせるところとか。危険を顧みないところとか。くわしく覚えてないけれども、そういうシーンがあった気がする。どのルートとかも、さっぱり出てこないけどね。
結が危ない目にあわないためにも、間者として活動しなくては心に誓った。
日が開けて、私はさっそく行動に移した。物陰に身を隠し、結の様子をうかがう。どうやら菅原先輩と会話しているようだ。もしや菅原ルートだろうか。
「ねえ、なにしてるの?」
「何って、決まってます。結と交流のある男性を探っているのです」
「なんで?」
「大好きな結が悪い男につかまらないように……」
はて。いったい自分は誰と会話しているのだろうか。振り返って飛び上がった。匠馬がいるではないか。
「面白そうなことをやってるね」
ゲーム中で出てきたときは、感嘆の息をこぼしてしまうほど素敵な笑顔であるのに今はなぜだか喜べない。
「お話、終わったみたいだよ」
視線を戻せば、匠馬はすたすたと結の方へ歩いて行ってしまう。会話を何度か交わした後、私のもとへ戻ってきた。
「週末に菅原先輩とデート行くんだってさ。ついて行く?」
「もちろん!」
私が即答すると、なぜか匠馬は腹を抱えて笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます