第5話 火の鳥が飛んでくる・後編
対策期間最終日! 今年も無事に終えられるかと思いきや、そうは問屋がおろさなかった!
「……たまえ」
むにゃむにゃ。
「……起きたまえ、グレン君!」
ぱちん!(←鼻ちょうちんが割れた音)
はっ! 休憩中にノヴァに揺り起こされた!
せっかく夢の中で難しい任務をやり遂げてカンナ君からごほうびのチュウをしてもらうところだったのに! ちくしょう! だが俺は寝起きがいいのですぐさま頭を切り換える!
「何事だ?」
「あれを見ろ」
と、ノヴァが指差した先、わりと近いところに一羽の【火の鳥】がいた。まぁ単体で飛ぶのは珍しいが……
「あれがどうした?」
「よく見ろ!」
「……?」
あっ!
で、デカい!! 距離はまだ離れているのに、サイズのせいで近くにいるものと錯覚した!
一体何なんだあれは? ドラゴンよりデカいんじゃないか?
「……まずいな」
体がデカい分、まき散らす火の粉の勢いも強い。現在の布陣では防ぎ切れなくなりそうだ。
「グレン様!」
と、屋根裏部屋の窓からカンナ君が現れた。
「ギルドより、討伐せよとの指示です!」
「むっ、そうか!」
本部もすでにあれを見ていたか。彼らにしては判断が早いな。
「ちょっとかわいそうだけど、仕方ないね」
と、ノヴァが手袋をはめながら言った。
巨大な【火の鳥】はみるみる近づいてくる。翼からは大量の火の粉――というより、輝く気流のようなものが盛大に排出されている。
指示を受けた消防士たちが進路に集まってきているが、【アクアシールド】を出すので手一杯のようだ。
「見せ場は君に譲ろう」
と言って、ノヴァが見張り台の手すりに手のひらをかざした。すると!
ビシィィィッ!!
氷のはしごが天高くそびえ立った! 器用な奴め!
「すごい……!」
と言ったのはカンナ君である!
いいなあいいなあ! 俺もすごいって言われたい! 言わせよう!!
「ありがたく使わせてもらうぞ」
「いってらっしゃい」
「グレン様、お気をつけて!」
氷のはしごに手をかける!
ちべたっ! 手がちべたい! だがそんなことを気にしている場合ではない!
がしがしとはしごを昇っていく!
【火の鳥】の目線の高さまで来た!
まだ50メートルほど離れているが、この距離ですでに熱を感じる! 数多の火災現場をくぐりぬけてきた俺でもこれほどの炎はお目にかかったことがない!
距離20メートル! あ……熱い!! 顔がチリチリする! 普通の炎ならこの距離で【パシフィック・ストライク】を撃てば確実に消せるが、あいつは普通とは程遠い!
直感した! ゼロ距離で撃ち込まないと無理だ!
はしごをもうちょい登って! それっ、大ジャンプ!!
「ッ……!!!!」
あぢぢぢぢ! 痺れるほどの熱を浴びつつ、背中に着地!
「喰らえ!」
【パシフィック・ストライク】!!
「うぐ……!?」
馬鹿な! 押し返される! 俺の渾身の一撃を押し包むほどの熱気!
だが!
「負けるかァ!」
出力増大!!
カンナ君の御尊顔を思い浮かべる! うおおおかわいいいいいい! 世界一かわいい! 好き!!
年の差なんて気にしない! 気にしてない! けど! 世間的にはアレだしもうちょい年が近かったらなと思わなくもない! つまり実は気にしてる!
でも好きなんだあああああ
「あああああああああああああああ!!」
手ごたえあり! 押し切った! 急激な涼しさを感じる!
ふわっ
ふわっ?
足元が、ない。え、【火の鳥】消えた? 倒したら消えるの? こいつをクッションにするつもりだったのに!
お、落ちッ! はしごには手が届かない!! 落ちるうううう!!! この高さから落ちたらさすがに死ぬううう!
うおおおお! まずい、本当にどうにもできない! こうなったらせめて即死で! 痛いのは無しでオナシャス!
つるっ
「!?」
しゃーーーっ
おしりがちべたい。
しゃーーーっ
着地。
「……」
ノヴァが氷で絶妙な傾斜のすべり台を作ってくれたおかげで、俺はすんなりと地上に生還した。つくづく器用な奴め!
「ありがとうノヴァ。また借りができたな」
「フッ、当然のことをしたまでさ」
「グレン様!」
と、カンナ君が駆け寄ってきた。
「ご無事ですか?」
「ああ、何とかな」
「良かった……!」
うおおおおお!! だっ、抱きつかれた!! ぎゃあああ嬉しいいいいい!! 仕事頑張って良かった!!
握手に勝った! ハグのほうが上だ! やったやった!
「あっ」
と言ってカンナ君が離れた。
えっ、ど、どうしたの? いかがわしいことは何も……
その時!
ぼろっ
と、耐火服が崩れ落ちた! 下に一応肌着を着ていたとは言え、乙女にお見せするような姿ではない!
俺は、ひどく赤面した!
第一部、おわり!
おっさん消防士が最強の水属性スキルで次々と炎を消し止める 森山智仁 @moriyama-tomohito
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