第6話「授かったもの」




 もし、能力や魔法が一つだけ使えるのなら、何を願うだろうか。一切を遵従じゅんじゅうさせる能力。再生する魔法。それとも、すべてを死へと導く力。


 存在するすべての能力や魔法を使えればどれほど素晴らしいだろう。ラプラスの悪魔のようにこの世の全てを支配下に置き、誰もが憧れる人あらざる存在へとなり得る力がどれほどのものかは考えるまでもない。時代を超えて有象無象がその力を渇望かつぼうし、心血しんけつを注ぎ神に祈りを捧げてきた。


 だが、その祈りが誰人に宿ることは無かった。大陸を支配する力を手にしようとも、すべてというすべてを手にする者はいなかった。昔も、今も。神は器にかなわない力を与えることを是認しなかった。


 それは、神がその力が神自身をこくすることを恐れたというのが一つ。もう一つは力に見合わない者が崩壊を迎え、力の暴走による被害を危惧したことにあった。故に、神は大きな力を与えることを許さなかった。



 結局何が言いたいかというと、つまるところ、



「なんで、なんで俺の能力こんな地味なんだ!前世で何か神の気にさわることでもした?」


「まあまあ、サクらしいっちゃサクらしいな(笑)」


「ほんと気持ち悪い。何勝手に何度も私の発動させてくれちゃってんの?」


 自分を指さし不平を垂れるサクの背中を翔が叩き、高宮は銃口をサクの頭に向けて烈火のごとく怒りをあらわにしていた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



「何の能力なんだよこれ。俺、能力発動させた感じしないし人の能力を発動させる能力って何?聞いたことねえし地味すぎるだろ!クソほどよく分からんガチャガチャのハズレと変わらんわ」


 そう、何度目になるかわからない同じ話を耳にして、翔は幼い顔を苦くした。


 何処を見ても永年を物語る樹木が地をおおい、圧迫感がある。さっきまでいた屋上とは違ってうるしのように森は黒く、踏みしめる地面は湿り気があり、気を抜けば足を滑らせてしまう。


 今は、サクが生んだこの微妙に重い空気から脱却すべく戦いに出向いているところ。だが、出発から一向に変化が訪れることは無く、正直言ってさすがにサクの絡みがだるい。


「ラノベ的展開にも裏切られて……。俺がここに来た意味よ……」


 さらば……主人公枠……。

 もう無意味だと分かってか、サクは届かない場所へと行方をくらました未来を追うこともない。深閑しんかんとした森の中をただ機械的に歩みを進めた。


 あれだけ過剰に期待していた分、サクの顔には絶望の色が濃いことは暗さで顔が見えなくとも翔には十分に伝わった。


 サクの能力は対象の能力を発動させる能力。攻撃でもなければ防御でもない。ウィークポイントを挙げるとすれば、まず能力だけでは一人で戦えない。


 アシスト類の能力と言ってもチームプレイにとって必要かどうかと問われると別に必要なわけでもない。


 命を奪い合う現場では力のない弱者、言うなれば赤子と同じだ。


「まぁ元気だそうぜ?もしかしたら能力使わなくても十分強いみたいなのもあるかもだし。戦ってストレス発散しよう」


 多少の期待をかけた翔にも罪の意識はある。翔は何度目になるか分からない慰めの言葉を投げ、苦笑いした。


 再度、広いのに狭苦しい沈黙が張り詰める。 翔が黙すれば、また同じことが繰り返される。そんな事は分かっていても、意味のない会話に花を咲かす能力はなかった。



 しかし、今度は意外な声によりその沈黙は破られた。


「その能力使えない事はないわ」


 突如として口を開いた高宮、その様子を二人はいぶかしむ。翔はらしくないと感じる。いつも冷めていると、そう思わせる彼女が機転を利かせているようで。


 サクは「や、そーゆー励まし別にいいから」と冷めているが高宮はそんなものは無視。


「その能力は使えない事もない。例えば戦いの場において、重要なのは何?」


「あー……死なないこと」


 憂鬱とも無関心とも嬉しさとも取れる曖昧な声。


「そうね。なら死なないようにするには」


「敵の情報を少しでも多く掴んでおくってことか……」

 なるほど。初見殺しの相手には都合がいい能力ということか。

 それならサクの能力も戦闘には欠かせなくなるわけだ。


 サクも高宮の考えを汲み取ったらしく、

「あぁっ!初見殺しが一番怖いって事か!なるほどそれが俺の存在意義、つまりは囮。囮とか嫌だよ誰が好き好んで危ないことするんだよ」

 

 サクは両手を広げ平和、つまりはラブアンドピースが大事だと訴えかける。


「うるさい。相手の能力の矛先を自分以外にすればいいでしょう?そのマイナス思考そろそろ本気でうざい。中てるわよ」

 

 とは言ったものの、銃を構えることも突き付けることもする様子はない。


 中てるな。わかった。元気出せばいいんだろ。

 半ばふてくされながらもサクはその願いを聞き入れた。


「元気になったところでこれからの戦闘の話をしようと思ったんだけど、それより先にみんなが戦ってるとこに着きそうなんだよなあ」


 奥、微かに金属音が風に乗って鼓膜を打った。


「どうする?もう戦闘しちゃうか。ほら、初見ってなにかとうまくいくから大丈夫だろ」


「いやいや翔俺戦い方知らないんだけど⁉さすがに足手まといなるぞ」


「いやいや大丈夫だって。戦えばわかると思うけど体が戦闘できる体になってるから。ビビってんのか?」


「いやいや死んだらシャレになんないから‼ちょっ、ちょっといったん止まろ。な?」


 気後れするサクに対して、聞こえてくる戦闘音は大きくなっていく。


「あーもー無理だ。ここ抜けたらもう殺すか殺されるかの場所だ。何事も挑戦!さあ行くぞ!」

 








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レモンオブドーン 雪解 水 @leno

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