第233話 俺の味方はいない!

「敵がやって来ないのも、いらつくもんだな。コッチが気を揉んじまったぜ」


「そうんねん。準備はとっくに終わってたわん」


「みんな体調に問題ないか?」


「ええ、いけるわ!」


 本日は晴天なり。準備万端整った。


 城塞の屋上に各部族の魔法使いが、多く集まっていた。奥様軍団の姿も見える。


 男女関係なく魔力が高い者が、ハイドラをサポートするのだ。


 あと城塞にいるのは退避支援要員だけで、他の戦士達は外に退去してもらっていた。


 作戦が失敗したら、とにかく逃げる算段である。


 みんなの命が第一で、無理にゴーレムと戦う必要はない。


 逃げた後で対策をまた考えればよく、一つ目巨人の歩みは遅いから時間はあるはず。

 まあココで決めれば問題なし。



 城塞屋上の石畳いしだたみには、魔方陣が描かれ外側に魔法具が置かれている。


 魔力を増幅させる効果があるらしい。


 そして魔方陣の中央から胸壁にかけて、大きな機械と二股に分かれた長い棒のようなものがあり、先っちょはゴーレムに向けられている。


 俺達の最終兵器、『ケラウノス』。


「……まだ遠い。なるべく引きつけて撃たないとな」


「ええ。外したら元も子もないわ」


 しかしコッチをおちょくるかのように、ゴーレムは停止する。


 ゴブリンメイジ達は休んで、魔力の回復をしてるようだった。



「えーい、イライラするのだ! さっさとくるのだノロマ!」


「うんうん!」


 短気なアマラに誰もが賛同する。気持ちはみんな同じ。


 巨人に対する恐怖よりも、怒りが勝る。うーん、この状況はあまりよろしくない。


 クールダウンさせないと、このままだとミスがでるだろう。


「まあまあ、みんな落ち着け。これはしばらく動かんと思うから、コッチも休憩しようぜ」


「そうですわね海彦さん。お茶にしましょう」


 エイルさんがフォローしてくれたので、助かる。


 みんなでビニールシートを敷き、座って休むことにした。


 談笑しながらフルーツを食えば心も安まる。これで冷静になり平常心に戻った。


 食べ終わる頃に、再びゴーレムは動きだす。


「ちょうどいいタイミングだ。みんな配置についてくれ!」


「ええ!」


 ドワーフ達が砲身の位置を調整し照準を合わせ、魔法使い達は両手を伸ばして、ハイドラに魔力を送り始める。


 魔方陣が輝き出し、膨大な力が集まっていく。俺と族長達は後ろで見てるしかない。


 みんなが見守る中、ハイドラが呪文を唱える。


「そは十二神の長、大いなる者、女神の夫、雷霆らいていを操る天空の神。わが願いに応え顕現けんげんせよ! 精霊神召喚! ユピテル!」


「おおっ!」


 俺達の真上に、ヒマティオン一枚布を着たヒゲ面のオッサンが現れる。かなりでかい。


 後ろが透けて見えるので、実体はないのだろう。


 神のオッサンはハイドラの動きに合わせ、装置にある二本の鉄棒を握ると、両手が光って電気が装置へ送られていく。


 あっと言う間にエネルギーの充填が完了した。


 ゴーレムは目の前、パンチを繰り出すとこだった。


「レールガン、発射よん!」


 それは一瞬、目で追えた者は誰もいなかっただろう。


 発射された光弾は一条の閃光となって、ゴーレムの目玉を打ち抜き、空の彼方へ消えていった。


「やったわ!」


「わーい!」


「うおおおおおおおー!」


 ゴーレムは後ろに倒れながら崩れていく。核を失ったからだろう。


 残った魔物達は逃亡。俺達の勝利だ!


 誰もが歓声を上げ抱き合って喜んでいる。興奮は収まらない。


 ああ、長い戦いだったな。



 フローラ達も俺の元に駆け寄ってくる。かなり魔力を使ったわりには元気……ちょっとまて、目が血走ってるぞー!


「これはやばい! うっ!」


 貞操の危機を感じ、逃げだそうとするも遅かった。周りを囲まれてしまう。


「もう我慢できないのだー! 海彦、アマラと子作りするのだー!」


「今すぐですー!」


「私が先よん!」


「妾が一番じゃー!」


「まあまあ、まずはベットに連れていくだわさ!」


 女達は全員興奮して発情中、何を言ったところで無駄。これはやるまで収まらないな。


 力では敵わず族長達を見て助けを求めるも、「娘をよろしく」などとほざいている。


「お待ちなさい!」


 ただ一人エイルさんが止めて、


「これを持って行きなさい。強精剤です」


「ありがとう、母さん!」


 ……くれなかった。俺の味方は誰もおらず、脱童貞の流れが止まらない。


 女達の手が迫ってくる。もはやこれまでか……

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