第232話 某ロボットではない

「なんだありゃー!?」


 魔物達の基地がある北岸で何かが動いている。森林から野鳥たちが飛び立ち、鳴き声を上げて逃げ惑っていた。


 空を埋め尽くすほどの、鳥の大群は遠くからもみえた。


 そいつはズシン、ズシンと地響きを立て、木をなぎ倒し地面を揺らしながら、城塞に向かってくる。


 かなりでかいのは間違いない。


 やがて、その全貌ぜんぼうが明らかになると、誰もが大声で叫んで驚く。


『あれは、ゴーレム!?』


「一つ目の巨人!」


「……………………ザ○だな」


 俺からすれば某ロボットアニメに出てくる、やられメカにしか見えなかった。

 見た目はソックリ。


 だがマシンガンや盾は持っていないし、どう見ても身体は金属ではなく、樹木と土が混じり合って作られてる。


 似てはいるが、巨大ロボットではなく全く別物。ゴーレムと呼ぶのが正しい。


 どちらにしろ、二十メートルはある化け物だ。



「くそ! 弓矢が効かない!」


『空気銃もダメだ!』


 前方にいたアルザス騎士団と気球部隊が、遠距離攻撃を仕掛けていたが、武器が一切通じてないようだ。


 正に蟷螂とうろうの斧。巨人にとって人間は蟻に等しい。俺は下がるように言う。


「無理はせずに退いてくれ」


『……分かった』


「こりゃー参ったな。最後の最後で、あんなのが出てきやがった。あれは魔法なのか? フローラ、ロリエちゃん」


「たぶんね。私もこんなのは初めて見たわ。後方にゴブリンメイジ達の姿が見えるから、ゴーレムを操ってるのは間違いないわ」


「ゴーレムの中には赤い精霊がたくさんいるの。でも体を形作っているのは、あの大きな光る目だと思うわ。大きな魔力を感じるの、お兄ちゃん」


「そうか、モノアイが弱点だな」


 目を壊せばいいと分かったものの、その手段がなかった。


 地上からでは、頭まで攻撃が届かないし、威力のある武器もない。


 城塞まで接近したところで攻撃すればいいが、ピッチングマシンで破壊できるかどうか、難しいとこだ。


 ロケットランチャーが欲しいが、そんな物はココにはない。


「うーん…………」


 俺は悩む。逃げるべきか? 戦うべきか?


 ゴーレムからの攻撃を食らえば、いくら固い城壁でも壊されてしまうだろう。


 幸いかなり足が遅いので、今のうちに全軍を撤退させればいい。


 どちらにせよ、直ぐに決めねばならなかった。そこに女達が近寄ってくる。



「海彦、アレ・・を使いたいわん。私はイけるわよん!」


「いや、アレはかなり危険だ! 実験で装置は派手にぶっ壊れたし、魔力切れでハイドラは死にそうになったじゃないか!? ダメだ! アレを使うくらいなら逃げた方がいい!」


 俺は思い止まるように言うが、女達の意志は固かった。


 やはり男に負けない戦士なのである。


「大丈夫よ海彦。今度は私達の魔力をハイドラに渡すわ。みんなでやれば成功するはず!」


「逃げるのは嫌いだわさ! アレは改良して頑丈に作ったから、今度は簡単には壊れないよ!」


「お兄ちゃん、お婆ちゃんが残してくれた魔法具があるわ。これを使えば成功するの!」


 全員やる気満々、これは止めても無駄だろう。フローラ達は勝手にやるはず。

 俺も腹をくくる。


「……分かった。みんな無茶はするなよ。ただ失敗したら直ぐに逃げるぞ! いいな!?」


「ええ!」


 全員が肯く。


 やると決まれば行動は早い。


 砦にいた味方は城塞に移動し、全軍が集結して作戦準備に取りかかる。


 まずは戦場の後片付けを戦士達にしてもらう。魔物の死体が多すぎて、悪臭が立ちこめ始めていたからだ。


 穴を掘って魔物を放り込み、石灰をかけて埋める。あるいは木をくべて燃やす。


 ただ鬼将軍の遺体は、オグマさんとオーク達が丁重に葬った。戦った相手に対して礼をつくす。

 


 こうして一日が過ぎても、ゴーレムはやってこない。これぞ亀の歩み。


 これなら余裕で、準備は間に合うだろう。


「派手に登場した割りに足はおっそいな? ハッタリか?」


「多分、動かすのに大量の魔力を使うんでしょ? 車や船で言うところの『燃費が悪い』よ」


「なるほどな。本物の巨大ロボットを少し動かすだけでも、600馬力はいるしな。しかも動きは遅いし、電力はバカみたいにくう」


「実用的ではなかったから、最後まで戦には使わなかったのかもね」


「そうだな。しかし、コッチにも奥の手はある!」


 更に一日が過ぎて、ザ……ゴーレムはやって来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る