第230話 切り札を出すしかない

「ねえダマされてどんな気持ち? ねえーどんな気持ち? 無駄な努力ご苦労様……と煽るのもここまでだ。どうせ言葉は通じないしな、チャールズさん!」


『おう! 発進じゃ。いくぞオグマ!』

『うむ!』


 魔物達は絵壁を見上げたまま、動きが止まっていた。頭が真っ白になってるのだろう。


 もはや攻め手はない。


 もし穴が開いていればなだれ込んだだろうが、魔物らの希望は完全に断たれた。


 奴らの心が折れたココが勝負所。俺は切り札を出す――。



 キュル、キュル、キュルという音と、蒸気エンジン音が戦場に鳴り響く。


 鉄の塊が戦場に現れた。それは五両の豆戦車まめタンク。製作はドワーフ委員会。


 キャタピラ無限軌道で走行し、最大時速は40㎞。


 全長三メートル・重量約三トン・装甲は最大10ミリ・二人乗り。


 砲塔はなく、銃架じゅうかに空気機銃があり、コンプレッサーで弾を連射する。


 戦車の操縦はチャールズさん。そして銃を撃つのはオークのオグマさんである。


 車高が低いのでオグマさんは立ったまま乗り、ハッチから上半身を乗り出していた。


 ボーッとしていた魔物達は、迫ってくる戦車を見て恐れおののく。初めて見たのだから無理もない。



「おらぁー! 潰れろー!」


「アンギャア――――!」


 裏門から発進した戦車部隊は横撃に成功する。


 地面の起伏をものともせずに進み、魔物達に突っ込んで体当たりして踏み潰す。


 流石にこの質量を盾精霊は防ぎきれず、戦車にドンドン押されて消えてしまい、ゴブリンらはひき殺される。バキバキと骨が砕ける音がした。


 オグマさんは機銃をぶっ放して、魔物達を掃討している。弓矢で反撃してくるも、戦車の装甲を貫けるわけもなかった。


 現代の戦車に比べればまだまだ劣るが、ここでの破壊力は圧倒的だ。


「ガハハハハ! 爽快爽快!」


「うむ!」


「やったあー!」


 戦車の活躍で歓声が上がる。さらに、


「突撃――――!」


「いてこませー!」


 戦車の後を追いかけてきた戦士団が到着し、魔物達に襲いかかる。


 これは電撃戦。


 先行する戦車が敵陣を突き崩し、続く歩兵が浮き足だった敵を倒していく。


 魔物達は戦車だけでパニック状態。軍としての機能はもはやなく、ヘスペリスの戦士達に血祭りにされていく。


 魔物軍団は風前の灯火である。



「勝ったな!」

「ええ!」


 俺達は勝利を確信するが――!


「フンガー!」


 一匹の鬼がチャールズさんとオグマさんの乗った戦車の前に立ちはだかり、なんと両手で止めてしまう。


「嘘だろ!?」


 そればかりか、豆戦車を横倒しにしたのだ。信じられないパワーだった。


 恐らくは鬼の族長で、魔物軍団の将軍なのだろう。これは強敵だ。


 乗っていたオグマさんは、倒される前にハッチから飛び出していた。


 すかさず戦車にくくり付けてあった、大剣を取って鬼将軍オーガジェネラルに斬りかかる。


 鬼将軍も地面に突き刺してあった戦斧を持って、受け止めた。



「いちちちち……ん?」


 転げた戦車からチャールズさんが這い出てくる頃には、両雄は何合も打ち合っていた。


 でかくて重い得物を使っているのに、動きが速すぎて俺にはみえない。


 剣戟の音が戦場に響き渡る。


 敵味方ともに、この一騎打ちを固唾を飲んで見守っていた。手を出すような無粋な者はいない。


 リンダは不安そうな顔で、父親の戦いぶりをみていた。


「大丈夫だリンダ。オグマさんは強い」


「ああ……」



 数え切れないほどの打ち合いが続き、双方が傷を負う。ただ浅く決定打にはなっていない。


 オグマさんが戦斧に腕を斬られそうになったが、何とか躱して腕時計だけ破壊された。


 同時に鬼将軍の耳飾りが、大剣の突きで壊される。実力は五分。


 まだまだ続くかと思われた打ち合いは、意外な形で終わる。


「フンガー!」


「むん!」


 思い切り剣と斧がぶつかり合うと、バキンという音ともに壊れてしまう。


 武器の方が、両雄のパワーに耐えきれなかったのだ。


 武器を失っても、闘志は衰えない。両者は肉弾戦を始める。

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