第229話 決着をつけたい

「……そうか、アマラとシレーヌが無事でなによりだ。戦士達に怪我人が出たのはしかたないが、生きてるのなら言うことはない。あとは無茶しないでくれよ」


『わかったのだ!』

『はいですー!』


 俺は無線で西砦の戦況報告を聞く。リザードマン部隊は全滅。


 水中から進軍してくるのは予想通りだったが、兵器と作戦が上手くいくかどうか心配で、犠牲者が出なくてホッとしている。


 なぜか二人のテンションは高く、勝利に興奮していてなんか恐い。


 発散先が俺にならないことを祈る……。


 南の街にも魔物達が侵入してきて少し焦ったが、すぐにアンドレさんに頼み、アルザス騎士団と向かってくれた。


 速攻で魔物を片付けてくれたので、こっちも被害はなし。パイセンも活躍したらしい。


 やれば出来る人だった。みんなのお陰で助かっている。



「ふう、今日は各地で激戦だったな。一つ指揮を間違っていたら、危なかったかもしれない。やっぱり楽な戦いはないなー…………!」


『このドグサレがあぁ! ビチクソ魔物はくたばりやがれえぇ――――!』


『み、雅様――!』


「…………」


 ラジオから大声が聞こえてきたかと思ったら、気球偵察隊が空気銃をぶっ放していた。


 今までは手を出さずに我慢していたが、とうとうキレたらしい。


 自分達だけまともに戦っていなかったから、忸怩じくじたる思いがあったのだろう。


 雅は豹変して暴れている。銃を撃ってストレスを発散してるようだ。


 北へ逃げてる魔物に対し、空から追い打ちをかけていた。


 気持ちは分かるので、特に止めたりはしない。


 ただ下品で乱暴な台詞が続くので、ラジオ放送は止めた。王女様のイメージダウンは、避けたかった……聞かなかったことにしよう。


「こんだけ叩いても、まだ全滅はしてないんだよなー。魔物は本当にしぶとい」


「それでも残りは少ないわ」


「こりゃー、最後の一匹まで攻めてくるな。明日が恐らく最終戦」


「ええ」

「だわさ!」


 フローラ達は肯く。戦の流れを肌で感じ取っているのだ。


 下を見渡してみれば、魔物の死体と兵器の残骸で、戦場は足の踏み場もなくなっていた。


 いつもであれば男の戦士達が嫌々片付けるとこだが、日も落ちたし量が多すぎて、とてもやってられない。


 戦で疲れ果ててるので、一歩も動きたくもないだろう。


 俺は放置することにした。


「全軍に通達。夕飯を食ったら寝てくれ。とにかく休んでくれ」


『……了解』


 なんとか勝ちはしたが浮かれることもなく、みんな黙々と食事を取っていた。


 やはり何日も戦が続くと、精神が摩耗してくる。


 何事でもモチベーションを維持し続けるのは難しい。(☆ください)


 戦が終わるまであと少し……戦士達には頑張ってもらうしかなかった。



 明朝、晴れ、北に炊煙は上がっているが数は少なかった。魔物が減ったからな。


 最後の晩餐ならぬ、朝餐ちょうさんだ。今日は決着をつける。


 食った魔物達は時を置かずして、コッチに攻め込んでくる。


「アンギャアアアアアアアアア――――!」


 やはり数が減ったので声は小さい。雄叫びに開戦当初のような迫力はなかった。


 魔物達が空元気を出してるように聞こえた。もしくはヤケクソ。


「みんな、今日で終わらせるぞ! 全軍攻撃!」


「おおー! やったるぜ!」


 俺達はピッチングマシン・空気銃・ボウ銃・弓矢とあらゆる武器を惜しみなく使う。


 ガスや矢玉を使い切る勢いで猛攻をしかける。戦士達も奥様達も必死だ。


 ここが踏ん張りどころだと誰もが分かっている。しかし戦果はかんばしくない。


「守りはかてーし、奴ら全くひるまないな」


「人数が減った分、精霊で守りやすくなったようね。あと昨日の残骸を上手く使ってるわ」


「まるで、隠れんぼねん」


 ハイドラの言うとおり、魔物達は上手く逃げ回っていて攻撃が当たらない。


 攻城塔はなく、もう作る力もなかったようだ。なので――ドガン!


「フンガー!」


 オーガを中心に破城槌で城塞の門を叩いている。かなりのパワーで門が軋む。


 門の補修はしていないので、いつ壊れてもおかしくはなかった。何とかぶち破って、中になだれ込むつもりだろう。それ以外の勝機はないからな。


 ……だが、俺達に焦りはない。


「あいつら、まだ気づいてないようだな? 目の前のことしか見えてない」


「でも、もうすぐね。私達が破城槌を壊さなかった理由わけが分かるでしょう」


 時間が経つにつれ、魔物に犠牲が出始める。それでも、ついに城門の破壊に成功する。


 でかい扉は破れ、門の外枠も崩れ落ち、大きな落下音と土埃が上がる。


「ギャオーン! ギャオーン!」


「フンガ!?」


 歓声が上がったのも束の間、魔物達はすぐに声を失ってしまう。


 残った軍団は突っ込んではこない、来られない。


 なぜなら城門は壊れてなくなったが、目の前にあったのは城壁。門の形に黒く塗られていた。


 正確には奥行きがあるように見せかけた、だまし絵だ。上手い絵師が描いてる。


 俺は胸壁から身を乗り出して意気る。


「城門なんて飾りなんですよー。魔物にはそれが分からんのですよー」


 そう、城塞の出入り口は裏門しかなかったのだ。正門は攻撃を誘う囮。


 これに魔物達はまんまと引っかかったのだ。

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