第227話 興奮はおさえられない

(撃て、撃て、撃つのだ――――!)


 獣人達が水中銃をぶっ放していた。網の外からの攻撃で、リザードマン達は反撃のしようもない。


 海彦が得意とする囲い網戦法は、漁法として亜人の誰もがやれるようになっていた。


 魚と同じく一匹たりとも逃す気はない。


 水中で待ち構えていた獣人部隊は、ドワーフが作った人工エラをつけており、水から酸素を取り込んで呼吸をしている。


 なので水面まで浮上して息継ぎをする必要はなく、戦うことができる。


 海彦から海神わだつみ製をもらった雅が、密かに作らせていたのである。


 短時間しか使えないが、これは便利。


 銛の十字砲火をくらい続け、リザードマン達はたまらず網を登り始めるが、


「アホが! 死ね!」


「ヤシィー!」


 水上に頭を見せた途端、ボウ銃と空気銃の的になる。あとは血を流して沈むだけ。

 さらに新たな武器がお目見えする。


「オーライ、オーライ!」


「クレーンを回転。角度よーし、ゆっくり降ろしていけ」


 戦場にはエルフ船団もかけつけており、大型船のクレーンで何かを水中に下ろしていく。


 同じ作業をしてる船が数隻。かなり距離をとって、ぶつからないように注意していた。


 ――それは危険な兵器。



 水中にいるリザードマン達は逃げ惑っていた。深く潜っても、網の檻からは出られない。


 大きな網は水深五十メートルの湖底にまで届いており、逃げ場はなかった。


 やがて水中銃の攻撃が止み、変な物が目の前に降りてくる。


「……ヤシ?」


 それはクレーンで吊された水中モーター。


 完全防水仕様で、先端にはスクリューのような長い刃がついていた。


 おもむろにモーターは回り始める。すると、


「ンギャアアアアアア!」


 水中で絶叫を上げ、リザードマンは切り刻まれた。


 フードカッターならぬ、魔物カッターである。


 電動機モーターの回転パワーは凄まじく、固い皮膚を持つリザードマンさえも、軽く細切れにされてしまう。


 クレーンが上下左右に動く度、湖は血で赤く染まっていく。


 水中銃だけでは攻撃力が足りないと思い、海彦は魔物カッターを考案して、ドワーフに作ってもらったのだ。


「思いしったか蜥蜴野郎! これが勇者の力だ!」


「くたばりやがれー!」


「ほほほ、最高に無様ですわ!」


 亜人の戦士達は歓声を上げる。勝負は決まり、もはやリザードマン達に為す術はない。


 アマラとシレーヌは浮上して小舟に乗り込み、戦場を眺めているだけになる。


「……やっぱり海彦は凄いのだ」


「うんうん! そうだねアマラちゃん」


「もう魔物なんかサッサと片付けて、今度こそ子作りするのだー!」


「海彦さんの童貞を奪います!」


 二人は戦場で高ぶっていた。もし海彦がこの場にいたら、襲われていただろう。


 思いを寄せてる他の女性達も興奮しており、体の火照りを我慢している。


 戦が終わったあとは、恐ろしいことになりそうだった……。



 湖での戦いは勝利した。しかし、魔物の別働隊は他にもいたのだ。


 流木や葦を浮き輪代わりにして泳ぎ、アルテミス湖の岸沿いに進んできていた。


 海彦と戦士達は城塞と湖での戦いに気を取られていたので、別働隊は発見されることなく、砦を迂回し南にある亜人の街へと侵入する。


 泳げる魔物による奇襲作戦。まあ犬かきだが。


 その数、およそ400。ゴブリンとコボルド、そして狼男達である。


 街の中には兎族を含めた、非戦闘員が多数。海彦の両親もそこに避難していて守りは薄い。


 主戦場は城塞なので人員は割けなかった。


「敵襲!」


 見張り台にいた兎族が魔物を見つけ、サイレンを鳴らして街中に知らせる。


 気づいた者は直ぐさま家の中に入り、ドアを閉めてかんぬきをかけ、窓も閉めて家具をバリケードにして閉じこもる。


 こうすれば、そう簡単には家の中に入ってこられない。


 それでも恐くて仕方なく、家族は寄り添いあってガタガタと震えていた。



 魔物の襲来がなくても、家に引きこもっていた者もいる。海彦の前に喚ばれた勇者だ。


 先輩勇者と呼ぼう……本人の希望により、名前は割愛します。


 アルテミス湖で将軍アンドレ・兎族ピーターと一緒に助けられた後、人を避けてココに住んでいたのだ。


 もともと怖がりの臆病な性格で、戦うことなどできはしなかった。霧の外へと逃げたのは無理もない。


「なんで、俺がこんな目にー!」


 今も魔物の接近を知って、泣きわめいていた。

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