第226話 水中の戦い

「あの辺が怪しいのだ……」


「そうだね、アマラちゃん」


 アマラはやや遠くにある場所を指さし、シレーヌと戦士団は肯く。


 直感である。魔物が来るのを、いち早く察知していた。


「海彦の作戦通りにやるのだ!」

「オオー!」


 まだ敵は来ていない。ならば今のうちに素早く準備をするのだ。


 獣人達はたくさんの小舟に乗り、その場所へと向かう。


 着くと同時に小舟は等間隔に並び、何かを取り出して作業を始める。


 訓練のたまもので手慣れた動きに無駄はなく、あっと言う間に作業を終えると、大半の戦士達の姿は消えていた。


 ……どこに行ったのか? 残っているのはわずか。


 そこに人魚族の長であるテレサが、泳いでやってくる。



「やはり、敵が来ましたわよ! 人魚部隊が応戦してます!」


「こっちも準備万端なのだ!」


 敵船の下に隠れ、水中から進軍してきたのは蜥蜴男リザードマン部隊である。


 この敵は上空・水上からでは見つけられない。人魚達がいなければ発見できなかっただろう。


 湖をくまなく索敵してるので、見逃すことはない。


「えい!」


 人魚達が水の中にあるロープを引くと、鐘が鳴り響き、敵の存在を水上の味方は知ることができる。

 水の鳴子だ。


 リザードマンの数は約1000匹。前回の偵察とは違い、今回は本気で攻めて来ていた。


 水上からでは有効な攻撃はできず、水中で戦えるのは人魚達だけである。


 しかし泳ぎは互角でも数と力で負けており、このままでは三叉の矛トリアイナの餌食になってしまうだろう。


 だが、


「ト…………」


 リザードマン達は次々と倒されていた。


 光る何かが見えた時には、体に銛が突き刺さっている。断末魔も上げられない。


「そりゃー、くらいなさい!」


「えい、えい!」



 人魚達が持っている武器は、「水中銃」。これもドワーフ工場で作られたものだ。


 スリングゴムとスプリング式があり、銃身はかなり長くしてある。


 ゴムとバネをのばし、少しでも威力を上げるためで、殺傷力は十分な飛び道具。


 その分重くて水中でしか使えないが、弓矢と空気銃の代わりにはなる。


 ただし装てんには時間がかかるので、連続発射は不可能。ボウ銃と同じ。


 そこでリザードマン達は味方の犠牲を無視して、大勢で襲いかかっていき、銛を装てんさせる時間を与えない。


 人魚部隊の数は少なく、やられてしまうかと思われたが、


「ヤシ!?」


 三叉の矛で攻撃される前に、人魚達はその場から逃げ去っており、別な方向から銛が飛んできていた。


 水中銃での攻撃は止まず、リザードマン達は翻弄されていた。


「打ち終わったわ。次のポイントにいくわよ!」


「ええ」


 人魚達は水中銃を撃ったあと、すぐに別な場所に移動していたのである。


 一撃離脱戦法だ。泳いでいく先には、重しで沈められている長い木箱があった。


 完全に密閉され、漆がまんべんなく塗られているので、水中でも腐食はしにくい。


 それは、吸血鬼が眠っているひつぎではなかった。


 開けて見れば銛が装てん済みの、水中銃が入っていた。安全装置を外せばすぐに撃てる。


 魔物軍が湖に来る前に、準備していたのだ。かなりの木箱があり、武器の場所を知っているのは隠した人魚達だけである。


 こうしてゲリラ戦を展開しながら、リザードマン達をある場所へと誘導していく。



「ヤシィー!」


 リザードマン達はイラついていた。


 人魚達を追いかけても追いつけず、あちこちから銛が飛んでくるので、かなりの仲間がやられてしまっていた。


 それでも仇をとりたい思いで、必死にくらいついていく。


 やがて人魚達は集まって泳いで逃げていた。もう武器は持っていない。


 ようやく追いつく寸前。


「トカゲ!?」


 突然目の前に、漁網が現れる。


 水上の船から降ろされた網で遮断され、人魚達に近づけない。


「うふふふふ」


 それだけではない。周りを網で囲まれて、リザードマンは逃げ場がなくなっていた。


 罠に誘い込まれたのである。海彦の作戦だ。


 右往左往しながら泳いでいると、


(皆殺しなのだ――――!)


 水中のアマラが攻撃の合図を出していた。

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