第225話 野生の勘は鋭い

「いい加減むかついてきたな。命を粗末にするような、狂った奴らの相手はしとられん! リンダ、アレを動かしてくれ。いけるか?」


『あいよ。何度も試験してるから問題ないだわさ』


 魔物達の無謀な突撃に、俺は本気で腹を立てる。上から「死ね」と命令してる奴がいるかと思うと、怒りがおさえられない。それに従う魔物達にもだ!


 ならば、とっとと片付けることにした。そんなに死に急ぎたいのならやってやる!


 下階にいるリンダ達が動き、ある装置が動きだす。


「アギャアアアアアアアー!」


 つっかえ棒に乗っていたゴブリンどもは、悲鳴を上げて落下を始めた。


 丸太にはしがみつけなくなり、下手に触ると振り飛ばされる。



 一体何が起きたのか? 答えは、

 

「丸太の根元に回転歯車をつけて、電動機モーターで回している。つっかえ棒は高速回転してるから掴めるわけがない。木のドリルだ!」


 これで魔物は近づけなくなる。もっとも、これだけで済ます気はない。


 確かに丸太は尖っているが、攻城塔に穴を開けて壊すのは無理である。鉄じゃないからね。


 ただ、木と木がこすりあったらどうなるでしょうか?


「キャイン、キャイン!」

「ざまーみろだわ!」


 攻城塔は煙をあげて、一部が赤く染まってメラメラと火の粉が舞っている。


 はい、火がおきるんですねー。科学って不思議ですねー。


 誰もが知ってる原始人の火起こしだ!


 尖った丸太の先端には、松脂まつやにをたっぷり染みこませてある。


 天然の着火剤でよく燃えます。簡単に火が付きました。あとは燃え広がるだけです。


「ギャッホ! ギャッホ! ギャッホ!」


 魔物達は煙にいぶされ咳をしていた。つっかえ棒を止めることも火を消すこともできない。


 ポンプ消防車でもないかぎり無理である。


 西と東の砦でも同じ攻撃をしており、煙が立ち上がっているのが、こっちからでも見えた。


『やったでござる!』


『うむ!』


 無線から族長達の、嬉しそうな声が聞こえてくる。戦果ならぬ戦火。


 この喜びを分かち合いたい。大きな火に人は興奮してしまう。



 こうなれば魔物達の防御はゆるみ、円形盾と精霊の守りに隙ができる。


「今がチャンスだ。撃ちまくれ――――!」


「おおっ!」


 鉄球攻撃と空気銃での攻撃が再開される。


 魔物達はパニック状態のまま、撃ち倒されていく。


「攻城塔にいた魔物はこれで終わり……だけど、下に残ってる奴らはしぶとい」


「退かないわね。箱車と塹壕に隠れながら、破城槌で門を叩いてるわ」


「あきらめが悪いのねん」


「そんだけ必死なんだろうな。だが……!」


『海彦様! 湖で動きがありましたわ!』


 雅の緊急連絡に緊張が走る。防衛戦の裏で別な戦いが始まっていた。


 俺はアマラ達に無線で指示を出す。


  ◇◆◇◆


『リーフ、魔物を蹴散らしてくれ。一艘たりとも水路には行かせるな!』


「キュ――――イ!」


 無線で海彦の声を聞いた首長竜は、港からアルテミス湖へ泳ぎ始めた。


 言葉は理解しているし、やることも分かっている。


 何をとち狂ったのか、魔物達は小舟の船団をくりだして来たのだ。


 敵船団の位置は空からは丸見えで、気球に乗っている雅がリーフを誘導していく。


 水戦では最強のリーフに勝てるわけがないのに、湖に進軍してくるなど自殺行為にしか見えないが、海彦は敵の意図を読んでいた。


『あからさまな陽動で捨て石だ。とはいえ放っておくわけにもいかん。別動隊がいるはずだから、十分注意してくれアマラ、シレーヌ』


「わかったのだ!」

「了解です! 海彦さん!」

 

 言うやいなや、リーフは西側の水路におびき出されてしまい、別な船団が現れて高速で南下してくる。


 魔物の増援は、オールを漕いで西の砦に向かってくる。


 獣人族が守る西の砦は、城塞とは湖によって分断された位置にあるので、東から応援をだすとなると、駆けつけるのに時間がかかる。


 その代わり、水堀が周囲に張り巡らされてるので守りは固い。そう簡単にはおとせない。


「ぬっ! 魔物の動きが妙でござるな。攻めてくるようでこない」


タタ、アマラは外に出る」


「……そうか、気をつけるのだぞ」


 親子は何かを感じ取ったのだろう。獣人族の野生の勘は鋭く、危険を察知していた。


 険しい表情をしたアマラが階段を下りる度、後について行く戦士達が増えていく。


 砦の裏門が開けられた時には、武器を持った一団ができあがっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る