第224話 攻城塔は高い

「撃って、撃って、撃ちまくれ!」


「くらえ――――!」


 戦法や戦術なんてあったもんじゃない。雲霞のごとく押し寄せてくる敵に対し、ひたすら攻撃するだけだ。


 敵の矢や投石機の石弾はコッチには届かず、味方が一方的に攻撃しているのだが、戦果はいまいちである。


「あいかわらず精霊の盾は固いな、貫けん。魔物の魔法使いメイジの数も多い」


「改良を加えた箱車もかなり頑丈だわ。重そうだけど空気銃では射抜けない。また、ゴムタイヤを燃やして攻撃したいとこだけど……」


「もう無理ねん。水と砂を樽に入れて持ってきたわ。たくさんあるから直ぐに消されるわん」


『布マスクと燃えにくい羊毛毛皮もあるようですわ。海彦様』


「……そっか、しっかり火炎ビンと煙対策してきやがったな。水にひたせば、短時間だが防火服の代わりにはなる。魔物達の知恵か……いや、奴らに教えてる誰かがいる」

「ええ」


 魔王・邪神の存在が頭に浮かぶ。


 そうでなければ、わずかな時間でコッチの兵器に対応できるはずもなく、説明がつかない。


 しかし、それらしいボスは見当たらないので、魔法による念話で会話をしてるのだろうか?


 いなくなったホビット婆は、霊体とやらを飛ばしてたらしいからな。


 無線やスマホではないのだけは確かだ。考えてるうちに攻城塔が迫ってくる。


「リンダ、あれを出してくれ!」


『あいよ!』


 俺は伝声管を使い、階下にいる戦士達に指示を出す。


 今回、下で銃は撃っておらず、力自慢の猛者達が待機していた。


「ギャギャギャギャギャ!」


 攻城塔の上に乗ってるゴブリン達の声が近づいてくる。かなりやかましい。


 ようやく城塞に攻め込めるので、喜んでいるだろう。


 集中攻撃を攻城塔に浴びせているが、やはり丸い盾と精霊さんで防がれてしまう。


 胸壁まであと少し……



「イヌ!?」


 最初に異常に気づいたのは下にいたコボルド。突然、攻城塔が進まなくなったのだ。


 騒ぎは魔物全体に広がっていく。それを見て鼻で笑っているは俺達だ。


「ギャオン! ギャオン!」


「ふん、ようやく気づいたか」


 魔物達は上を見上げ、指を差していた。


 城塞下にある狭間から、尖った丸太が突き出ている。長さは約八メートル。


 油圧ポンプで押し出しているのでビクともしない。


 攻城塔は長い丸太に当たって、進めなくなっていたのだ。何本もあるので向きを変えても無駄。


 単純な手だが、「つっかえ棒」は役に立つ。


 地震の時は本当に助かりました…………て、何を言わせる作者め!

 


「グギギギギギ!」


 魔物達は悔しくて歯ぎしりしている。あと一歩のところで、おあずけをくらったようなものだからな。


 けっけっけけ! ザマーみろ!


 攻城塔に跳ね橋はついてないので、胸壁には横づけできず攻め込めなかった。


 俺達が攻城塔の対策をしてないと思ったか? 甘いな!


 ちなみに最初丸太の長さは短くて、五メートルくらいだったのだが、


「海彦、こんなのは余裕で飛べるのだ!」


「……そうか。もっと長くしよう」


 つっかえ棒の試験をした時に、アマラと獣人達に助走なしで軽く飛ばれてしまい、丸太を長くすることにした。


 さらにピストンを押せば、もっと長さを伸ばせるようにしてある。


 下手にジャンプすれば下に落ちて死ぬだろう。屋上にこれはしない。



「さあ、どうする? ――おっ!」


「魔物達も必死ね。何でもやるわ」


 攻城塔の上にいたゴブリン達は縄を降ろして、つっかえ棒の上に乗ってしがみついた。


 そのまま這うように前進してくる。


「ンギャ! ンギャ!」


「ふーん、手斧で丸太を斬るつもりか? でも、その状態は無防備だぞ。フローラ!」


「ええ、くらいなさい!」


 奥様軍団が丸太のゴブリンに向けて、空気銃を一斉に放つ。


 何の守りもないゴブリンは、銃弾を浴びて蜂の巣になり下に落ちていく。


 断末魔の声さえ上げられなかった。


 それでも奴らはひるむことなく、次から次へと丸太をつたってくる。


 フローラ達は休みなく銃を撃つしかなかった。下に死体の山ができあがる。


「……決死隊かよ。少しずつでも、つっかえ棒を削る気らしいな。やれやれ、頭がいかれてやがる。ふつう撤退するだろ!?」


「そうねん……」


 魔物達の狂気じみた行動に、俺は呆れかえると同時に恐怖をおぼえる。


 旧日本軍のインパール作戦じゃあるまいし、魔王万歳、突撃玉砕はやめろ!

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