第223話 後片付けするしかない

「あー終わり終わり、スッとしたわ」


「みんなでフルーツを食べましょう! パパイヤにマンゴーにライチもいいわね」


「うんうん。アナタ、下に降りて後始末してきなさい!」


「……………………」


 またもや旦那達は魔物の処分を命令される。


 敵が残っていないので、もう壁の前は安全だろう。


 外に出ても攻撃される心配はないので作業はやれる。


 実際のとこ魔物の死体は邪魔だし腐るし、放置しておけば疫病のもとになるので、早めに焼くか埋めておく必要がある。


 まだ煙を吐いてるタイヤも消火して欲しい。


 他には盾車の残骸の撤去に、塹壕の埋め戻し……やることは一杯だ。


 魔物達に再利用されないようにするが、また同じ事が繰り返されるだろう。戦争はイタチごっこ。



 男達は不満顔でブスブス文句を言いながら、城塞の裏口から外へ出ていく。城門は開けない。


 しかし戦うよりも飯の支度とか、後片付けの方が面倒で時間がかかるなー。


「あっ! アレだけは残しておいてくれー。あと門の補修もよろしく」

「わかった!」


 ある作戦があるので、俺は戦士達に頼んでおく。


 もう魔物達は攻めてくる様子はなく、湖の北岸に待機したまま日暮れを迎えた。


 これにて今日の戦闘は終了。勝ったけど所詮しょせん、初戦は小手調べ。


 魔物の残存兵力はまだまだいる。夜襲はないと思うが、一応見張りは立てておく。


 フルーツを食ったあと、奥様達は夕食の準備にとりかかっていた。これは生きてる限り続く家事で大変です。


 だから嫌な仕事を命令されても、旦那達は我慢してやるしかなかった。


 仕事を分担するからこそ、夫婦生活は成り立つ。



 晩になり奥様達の美味い手料理を食い終える頃、本格的に雨が降り出す。


「これじゃー、夜に攻めてこれんな。俺達には城塞とテントがあるから雨露はしのげるが、魔物は木の下で野宿か?」


「でしょうね。この雨で体は冷えるし、寝具もないからアチコチ痛くなりそう。まともには眠れないわね」


「やっぱり当初の予定どおり、持久戦じきゅうせんでいこう。長陣になれば、俺達に有利だ。コッチから無理に攻める必要はない」


「ええ、城にこもってるかぎり負けないわ。兵糧もたっぷりあるし」


「そうだな、さて寝るとするか。しかし、多段ベッドは奥様軍団にとられて、旦那達はテント暮らしか……」


「でも、雨漏りはしないしマットレスがあるから、むしろを敷いて寝るよりはマシよ。昔よりかなり快適だわ」


「じゃー、私が肉布団になってあげるわん。ベットにいくわよん海彦」


「ゴラア――――! ハイドラ!」


 二人が騒いでるすきに、俺はそそくさと食堂から司令所へ向かう。もちろん一人で寝ます。


 構ってはいられない。


 今更だけど俺が総大将で、各部族の指揮は族長達がやってる。戦場が広くなって神経を使う。


 なので明日の戦に備えて、体を休めんと。おやすみなさーい。


 翌日、魔物達は攻めてはこず、また何かを作っているようだった。木を切る音がやかましい。


 まあ想像はつくけどね。防衛戦に変更はない。



 ……三日目、ついに奴らは本格的な攻撃に出てくる。


「攻城塔か……よく作ったな。無骨だが屋上の胸壁まで届くぞ」


「しかも五台。なかなかやるわね」


「盾車がなくなって、箱車になってるわん。これは固そうねん」


 魔物達の技術力に俺達は舌をまく。ただの野蛮人と侮っていたから、気を引き締めるには、ちょうど良い。


『東の砦にも、攻めてきちょるぞ』


『西にも来たでこざる』


「了解です。どうやら魔物達は、チマチマ戦う気はなくなったようですね。一斉攻撃の総力戦。こっちも武器の出し惜しみなしで、全力で戦ってください!」


『おう! 目に物見せてくれるわ!』


『うむ!』


 持久戦が不利なのは悟ったはず。魔物達の兵糧は少ないとみた。


 周りに食い物がなければ、いつまでも戦えるわけがなく俺達から奪うしかない。


 消耗戦も無理となれば数に物を言わせて、一気に城塞を攻め落とす方法しか、手は残っていないだろう。

 

「ギャオ――――!」

「フンガー!」


 雄叫びを上げて、魔物の大軍団が迫ってくる。今までにない気合いが感じられた。


 声がでけーよ。いよいよ大激闘が始まる……。

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