第222話 気は進まないが、やるしかない

「ンギャ、アギャ!」


 ゴブリン達は騒ぎながら、盾車に円形の盾ラウンドシールドを取り付けていた。


 両脇にもつけて頑丈に補強する。俺はその工夫に感心する。


「なかなかどうして、魔物はバカじゃないな。しかし知恵はあるのに、何で攻めてくるんだ? これだけやられたら、俺達に勝てないのは分かるだろうに……」


「今は収穫時期だから、食い物目当てなんじゃない? それか、引くにひけない理由があるのかも……」


「いいえ、嫁探しにきて子作りしたいのよん。いやーん、犯されるー!」


「んなわけあるかい!」


 女を見ても殺しにかかってくるので、それはない。あと兎族で食われた者はいないそうだ。


 魔物の行動は未だに謎だらけである。どんな理由があろうと殲滅あるのみ。



 しばらくすると、改造した盾車を押して奴らはやってくる。


 またもや数は少ないが、今度はゴブリンメイジが赤い盾精霊を召喚して、部隊を守っていた。


 俺はピッチングマシンでの攻撃を再開させるが、鉄球は全てはじかれ、完全に防がれる。


「ほう、やるもんだ。やっぱり精霊さんはつえーな」


「魔物の魔法使いも馬鹿にしたもんじゃないわね。このままだと魔力切れを待つしかないけど、時間がかかりそう」


「そうだな。しゃーない、気は進まんがアノ手を使うとするか。これも兵器実験だ。フローラも準備を頼む」

「ええ」


 俺達は鉄球攻撃を止めた。無駄球を撃つ気はなく、空気銃も撃たない。


 攻撃を止めると、魔物達は騒ぎだす。


「ワオン、ワオン!」


「ギャハハハハハ!」


 こっちが引いたので、調子に乗って笑っているようだ。せいぜい今のうち喜んでおけ。


 この間に塹壕に潜んでいた、ゴブリンとコボルドがワラワラでてきて、城壁に迫ってくる。


 破城槌を押して城門前まできた。直ぐに攻撃が開始され、門を叩く音がやかましい。


 城門は木製なので、いずれは壊されるだろう。しかし、そうはさせない。



 下に敵が集まったのを確認し、俺は指示を出す。


「微風、風向き良し! 全軍、ガスマスク着用! 火精霊サラマンダーで点火のあと、直ぐに投てき!」


「了解!」


 城壁から大きな物が投げられた。


 それは魔物達の中に落ち、地面に当たって高く弾み、やがて止まる。


 これで倒された敵はいない。下に落ちた丸い物は五つ。


「ンギャ?」


 不思議がるゴブリンが近づいて見ると、それはぶすぶすと燃えており、黒い煙をもくもくと出し始める。


 煙はあっと言う間に一面に広がっていく。


「……参ったな、これは思った以上の威力だ。少量で実験はしてたが、一個だけでもあの煙の量。これ以上の投下は、止めておこう」


「そうね、自然が汚れちゃうわ。いでよ、シルフ!」


「ギャホ! ギャホ! ギャホ! エホッ!」


 投下したのはゴムタイヤ。


 中には油を染みこませたわらと、使い捨てカイロを詰めこんである。


 これに火をつければ、タイヤが燃えて有毒ガスが発生する。


 煙を吸い込んだ魔物達は、苦しんでのたうち回っていた。臭いもきついよな。


 盾車は役に立たず、これは精霊の盾でも防げない。


 あらゆる隙間から煙は体に侵入し、吸い続ければ死ぬだろう。


 ちなみに死なないとされてる鎮圧用の催涙弾も、大量に浴びれば死ぬのだ。


 安全な兵器など何一つない。



『おほほほほ! いい気味です。魔物達は煙に巻かれ、正に地獄絵図のようですわ、海彦様』


「……そうか。あまり接近しないようにな、雅さん」


『はい』


 気球からの報告を聞いて、俺は正直やりすぎたと思った。


 とはいえこれは生存権をかけた戦争。スポーツの試合ではなく、ガチの殺し合いだ。


 味方には被害が出ないようガスマスクをさせ、城塞内に煙が入らないように、フィルターを通した空気を内循環させている。


 もっとも、フローラ達が風精霊を召喚して、こっちに煙がこないようにガードしていた。


「ひー! ひー! ひー!」


 団扇であおぐの頑張ってください!


 戦場を覆っていた煙が薄くなってくると、下の様子が見えてくる。


「ゴブ……ゴブ」


「イ、イヌ…………」


 ほとんどの魔物達が倒れて息も絶え絶え、ただまだ死んではいない。しぶといな。


 これを見逃すほど、誰も甘くない。殲滅だ!


「トドメを刺しますわよ!」


「オオ――――!」


 奥様軍団による射撃が再開された。苦しんで倒れていようが情け容赦はない。


 空気銃を撃って、撃って、撃ちまくる。男達はやるせない表情で、嫁を手伝うしかなかった。


 それも、おやつの時間には終了。動いてる敵は残ってなかった。

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