第221話 男達の出番がない
バシュ、バシュという音が重なりあって止まない。
胸壁から奥様軍団が銃をぶっ放しているのだ。ただ火縄銃ではない。
――炭酸ガス式空気銃。これも炭酸泉の恩恵だ。
カートリッジ式とプレチャージ式があって、大きなガスタンクが用意されている。
利点は連射ができることと、雨に強いことだ。
折しも天候は雨がパラついていて、火縄銃だったら使い物にならなかっただろう。
発射するまで時間はかかるし、扱いが危険な火薬に頼らなくてもいいのだ。
殺傷力はかなりあるので、敵は倒せる。
盾車が破壊されて魔物達は右往左往し、良い的でしかなかった。
「おほほほほほ! 脳天を一発でぶち抜きましたわよ。これがヘッドショットというものですね」
「負けないわー!」
「アナタ、弾を寄越しなさい! 早く!」
湖での前哨戦の時と変わらない。空気銃の射撃訓練も各村で行われており、奥様達も参加していたのだ。
「弓より疲れなくて、いいですね」
「撃つのが楽だわー」
奥様達は喜んで銃の腕を磨く。
練習量は男達を上回り、予備兵力のつもりが主力になってしまった。
またもや出番をとられた旦那達は、弾とガスの運搬、熱くなった
熱くなると命中精度は下がるし、銃が変形してしまうので銃身交換は必要。
あと城塞の下からも、射撃音が聞こえてくる。
信長公の三段撃ちはないが、一つ下の階には
頑丈なガラス張りなので、視界は悪くない。戦場を一望できて敵の位置も丸わかり。
下ではフローラとハイドラ達が撃っていた。スコープ付きの狙撃銃で射程は長い。
塹壕に逃げようとしてるゴブリンを確実に仕留めていた。二人も達人級だ。
……通風口から声が聞こえてくる。
「ねえねえフローラ、玉ちょうだい。
「ふざけんなーハイドラ! 自分でとってこーい! いやらしい事ばかり言ってないで、真面目に撃てー!」
「発射するのは海彦よん」
「…………」
キレるフローラに、からかうハイドラ。これにみんなが爆笑していて、明るい雰囲気だ。
なので、俺は文句を言いたいの我慢する。
ハイドラに注意しても無駄だし、怒鳴ると士気が下がる。
もともと正規の軍隊ではないので規律はゆるい。それでも、仕事と戦いはちゃんとやってくれていた。
……ただね、女性は戦うもんじゃねえーだろ!
銃弾の雨を浴びせられて、魔物達はバタバタと倒れていった。
昼過ぎ、奴らは作った兵器を置いて撤退する。それでも、こっちの射程外ギリギリで踏みとどまり、あきらめた様子はなかった。
「思ったより、敵の数が少なかったな」
「そうね。倒れてる魔物はわずかよ」
『こっちも、逃げるのは早かったでござる』
「アタワルパさん了解です。ひとまず昼食を全員とってください。また攻めてくるでしょう」
『うむ』
魔物達が引いたからといって、俺達は追撃にはでない。城壁に攻めてきたのは二百匹程度。
万の敵の数からすれば微々たるものだ。こんなのは蹴散らせて当たり前。
歯ごたえが全くなかった。
たぶん、俺達を城塞から誘い出すのが、狙いだったのかもしれない。その手には乗らんがな。
さあ飯飯。
「海彦さん、どうぞ」
「どうもですー」
エイルさん達は、朝のうちから作っておいた、握り飯や弁当を配っていた。
竹製・木製の弁当箱は見た目も良く、余分な水分を取ってくれるので、冷めてても美味い。
やはり自然由来の物はよい。
魔法瓶に入れてあるお茶を飲んでいると、ホッとして戦争をやってる感覚が薄れる。
気が緩むのはマズいな。
「魔物に動きはないか。奴らも何か食ってるし……たぶん干し肉だな、固くてマズそう」
俺は飯を食いながらも警戒していた。胸壁から離れず、双眼鏡で魔物達を監視していた。
見張りはいるし気球もあるから、気負う必要もないけどね。それと亜人は俺より視力があるので、動きを見逃すことはないだろう。
昼食が食い終わる頃、魔物達は動き出す。
予備の盾車を持ち出してきて、何やら改造を始めた……。
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