第220話 城壁は固い

 森の中で待機していたダークエルフ部隊も撤収。


 森の木が無造作に切り倒されて、罠の大半が使えなくなったからだ。


 やっぱり、トラップ対策をしてきやがった。ただ、森に進軍してはこない。


 魔物軍は、真っ直ぐ城塞に向かってくる。


「ようやく来やがった。敵を待ってるのも疲れるな。戦は忍耐だ」


「そうねん。我慢できなくなったら、襲っちゃうかもん」


 全く別の意味に聞こえたが、ハイドラに突っ込むのは止めておこう。

 いつもワザとイヤらしく言ってるのだ。


「全軍に通達、射程に入り次第攻撃開始!」


『了解!』


 無線や伝令で俺は指示を伝える。


 とは言っても軍事教本マニュアルはあるし、軍事訓練をやってきたので今更言うことはない。


 各族長や将軍のアンドレさんが現場の指揮をするだけである。


 やがてガタガタ・ゴロゴロと音が近づいてくる。魔物が作った兵器だ。


 それらは、ある程度の距離までくると止まる。



「ン、ギャギャ!」


 ゴブリンの耳障みみざわりな声がすると、投石機が一斉に石を放った。


 ヒュン、ヒュンと数十個ほどの石が、放物線を描いてコッチに飛んでくる。


 慌てて避ける必要すらない。なぜなら……


「まあ、そんなもんだよな。高さ二十メートルの屋上まで届くわけがない」


 石は城塞の下壁にぶつかり、跳ね返っていた。


 大がかりなトレビュシェットはない。あれはやや構造が複雑で、チャールズさんだからこそ作れたといえよう。


 石は次々と城壁に当たっているが、ビクともしない。


 それこそ豆鉄砲をくらったようなもので、軽く跳ね返すだけの強度が壁にはあるのだ。


「そんな、へなちょこ石でこの城壁は破れんぞ! 城塞も砦も鉄筋コンクリート製。現代建築の結晶だ! 壊したかったら、ウルバン砲でも持ってこいやー!」


 俺は息巻き、意気がる。トロイの市壁・テオドシウスの城壁の上にいる気分だ。


 これらは長年破られることはなかったのだ。まあ、策略には負けたが……。


 セメント城壁の厚さは最大五メートル。


 他に花崗岩かこうがんなども材料に使っていて、かなり頑丈だ。


 魔物の投石機は速度が遅い上に、石を丸く加工してないので威力もとぼしい。


 ドワーフ製に比べると、かなり劣る兵器である。


 せいぜい煉瓦積みのモルタル壁だったら、壊せたかもしれない。


 百発近く撃ち込まれたが、ヒビ一つ入らなかった。



「ギャオン、ギャオン!」


 コボルドが騒いでいた。効果がないのをようやく理解したらしい。遅いわ!


 投石機の攻撃を止め、魔物達は進軍してくる。今度は破城槌を押してきた。


 引っ張る馬や牛がいないので人力である。あれはしんどいな。


 他の部隊は塹壕の中を歩いてくる。それと、もう一つ兵器があった。


「……盾車か。弓矢を防ぐにはいいかもしれんが……」


「ええ、私達にはアレがあるから……」


「こっちの射程に入ったな」


 キリキリキリ――バビュン! 擬音で表現するならこうなるかな。


 音が鳴ったあと、魔物の盾車の一部が壊れていた。目で追えた者はいなかっただろう。


 城塞の上、俺の近くで風切り音が連続で鳴り出す。


 下でバコン、バコンと音がして、丸太の盾車が破壊されていく。


「ンギャア!」


 そしてゴブリン達は、手足を吹っ飛ばされて悲鳴をあげていた。


 奴らを倒しているのは、投石機……いや城塞の上に並べられた、ピッチングマシンである。


 アルザス王のエリックさんに武器の相談をされた時、勧めたのがこれだ。


 野球ボールの代わりに鉄球を機械が投げている。蒸気機関と電動機があれば動力は十分。


 改良の末、小型化もできた。


 最高速度は二〇〇キロ、鉄球の重さは500~1000㌘。


 これを高所から撃ちだしているのだから、その威力は凄まじい。もう大砲である。


 並べた丸太など、障子紙に穴を開けるより簡単だ。


 またアーム式とホイール式があって、変化球も投げられる。避けられるわけがない。


『もっと速度と威力を上げたいとこだがのー』


「いやいや十分です……」


 チャールズさんは納得していないようだったが、戦果は十分すぎた。


 各砦と気球から戦況報告があがってくる。と言うより歓声だ。



『かーかっかっか! 石榴ざくろのように魔物の頭が吹っ飛んだぜ!』


『土手っ腹に風穴を開けてやった。しかも二匹同時!』


「…………」


 どこぞの残虐格闘ゲームのようである。実際、戦にきれい事はない。


 血も流れずに斬られた人が倒れるのはドラマの世界で、映画のような年齢制限はなく、目を背けたくなるような光景が目の前にある。


 ボカシが入らないので、これがホントの無修正。


 このくらいでショックを受ける亜人はおらず、むしろ意気揚々としている。


 俺もすっかり慣れてしまった。もう、魚や獣をさばくのと大差はない。


 ……それに、これだけでは済まないのだから。


 ピッチングマシンでの攻撃が一段落すると、次に新武器を持った戦士達が胸壁に並ん……えっ!?


「皆さん、撃ちますわよ!」

「ええっ!」


 エイルさんを筆頭とする奥様軍団が新武器を構えていた。男の戦士達ではない。


 号令とともに一斉射が放たれる……。

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