第218話 作戦行動にでたい

「それで主戦場となるのは、湖の東側と西側になるでしょう。陸地を通って南下してくると思います」


「左右から迂回して来るわけじゃな。水路をのぞけば、他の湖に行ける道は険しいから、儂らの基地に攻めてくる他あるまい。ただ前回の戦いで投石機にやられてるし、山に入ればアラン達の餌食になるのではないか?」


「そうだな、兄者あにじゃ。山だと大軍では簡単には進めん。弓矢のいい的だし罠もある」


「いえ、今回は石と矢に対策してくると思います。たぶん……をやってくるかも」


「なんと!?」

「うむむむ……」


 俺の予想に族長達は厳しい顔つきに変わる。まさか、とは思うだろう。


 かなり強引な戦法なのだが、犠牲を恐れない魔物なら可能性は大だ。


 それはコッチも同じで、過激な作戦は用意してある。戦にルールはないのだから。


「なので前線での応戦は適当なとこで切り上げ、城塞にこもります」


「それが良いじゃろ。魔物の数は多いから、囲まれたら一溜まりもない。防衛戦なら犠牲は出にくい」


「海彦殿の作戦でいこう!」


「うむ!」

 


 作戦は決まり、族長達はそれぞれ持ち場に向かう。


 東側は前回と同じく、オーク・ドワーフ・ダークエルフと、アルザス騎士団に受け持ってもらう。


 西側は狭く平地が少ないので、やや陣容は異なる。陸戦部隊と船の部隊に分けた。


 陸で迎えうちながら、船を移動させて矢での十字砲火を狙う。


 地形的にやれる戦法で、エルフ・獣人族・人魚達だけで十分である。


 場合によっては、東から船を出して援軍を送る手もあるので、上手くいけば挟み撃ちにできるだろう。


 それでも、基本は城塞で戦う予定だ。そのために新しい武器を作ったのだから。


 犠牲が出そうな白兵戦は避けたい。



「皆の者、西側の砦に移動でござるー!」


「おおっ!」


「いくのだー!」


 部族ごとの大移動が始まる。陣地の構築で、とにかく戦争は忙しい。


 戦うよりも準備に時間が取られる。料理と同じで下ごしらえには手間がかかるのだ。


 手を抜くと美味い物は作れはしない。辛抱強く進めるしかなかった。


 その間にも情報収集はかかさない。


「敵の様子はどうだい? 雅さん」


『はい、海彦様。北側に続々と集まってきてます。見慣れない新たな魔物もいますね。敵軍全てが集結するのは、もう少し時間がかかるでしょう。あと二、三日くらい……』


「そうか、まだ時間はあるな。その間にコッチも態勢を整えることにしよう。あと偵察で無理はしないでくださいね」


『ええ、そうしますわ。ホントはあの武器を試したいとこですが、我慢します』


「あれは最後の切り札だから、手の内をさらすのはまずいし、使わないにこしたことはない」


『はい』


 王女様は血の気が多くて困るので、俺は忠告しておく。


 どうも前線に出て自ら魔物を倒したいようだ。それは父親のエリックさんも同様。


 それは危険すぎるので後方支援をお願いし、ミシェルには目を離さないように頼んでいた。


 旗頭の一人を失うわけにはいかない。味方全体に大きな影響が出る。


 気球偵察部隊は昼夜交替で、休みなく敵軍を監視していた。何か少しでも動きがあれば知らせてもらう。


 一時たりとも目は離せない。斥候部隊も伝令となって各部隊に連絡していた。


 敵の位置さえ分かっていれば、味方は優位に立てる。


 あとはラジオによる戦況放送だ。みんなが聞き耳を立てているだろう。


 絶対に負けるわけにはいかない。ヘスペリスの興廃この一戦に在り!


 そしてついに、魔物の大軍勢が集結する……。


「……相変わらず、食うことだけはしっかりしてやがるな。理知的だ」


「ただ栄養バランスは悪そうね。葉っぱに、変な穀物と獣肉を入れた鍋。見ただけでもマズそうで、絶対に食べたくないわ」


「あれは、臭みもとってないわ。手抜きもいいとこで、むかつく! 料理はあたいらの勝ちだわさ!」


 アルテミス湖の北岸についた魔物の大軍は、炊事を始める。


 時は日没、星の明かりが見え出す頃、俺達も食事をとることにした。


 戦士達はご飯とパンを主食に、様々なおかずを平らげていく。どれも美味く士気は上がる。


 魔物は原始人のような食生活で、俺らとは差がありすぎた。


「今夜は新月。狼男もいるようだが、恐らく攻めてはこない、こられない。敵は大軍で陣形を組むにしても時間がかかるからな。バラバラになって突っ込んでくるアホなら楽だが、遠征の疲れもあるだろうから、多分このまま就寝」


「ええ、本番は明日の朝ね」


 フローラの言葉に肯き、俺達も休むことにする。

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