第216話 売り込みは激しい
私達は兎族を助けてから、アルテミス湖の港に戻ってきた。
戦闘は楽勝。ほとんどエイル母さん達が魔物を倒したので、あまり活躍はできなかった。
……ただ、男達を押しのけて戦うのは考えものね。でしゃばりすぎよ。
海彦の作戦のおかげだし、新武器もあったので勝てて当たり前。
このくらいで喜んではいられないわ。ハイドラやリンダ達も同じ気持ちだ。
まだ戦は始まったばかり、気を引き締めないと。
船を下りて、海彦のとこへ歩いていくと、男女二人の姿が見えた。
「あれが、海彦の御両親ね。無事でよかったわ」
湖めぐりの旅の後、本当なら海彦は日本に帰る予定だったけど、無線を送っていた異界人が、親御さんと知ってヘスペリスに残ることになった。
幼い頃に別れたと聞いてたから、感動の対面……には見えないわね。
海彦は困ったような顔をして途惑っている。どうしてだろうか?
私が近くにいくと、
「ちょうどよかった、フローラ。親父とお袋を案内してやってくれないか? 戦は始まったばかりだし、基地の避難所まで頼む」
「ええ、それは構わないけど……」
かなり素っ気ない態度である。私は夫婦に挨拶をして、連れて行くことにした。
途中、友人にしてライバル達が声をかけてくる。
海彦の両親ともなれば、名乗って顔を覚えてもらうのに強烈なアピールをする。
「アマラは海彦の嫁なのだー!」
「海彦様の婚約者ですー!」
「愛人よん」
とか聞くとむかつくが、ココは我慢。
なにしろ海彦の両親は聞いて驚き、女達の売り込みに引きぎみだ。
私まで張り合って騒ぐのは止めておく……。
基地の炊事場にくると、良い匂いが立ちこめていた。母さん達が炊き出しをしている。
戦ったばかりなのに、助けた兎族のために腕をふるっていた。
まずは、食べて落ち着いてもらった方がいいわね。
長い間、魔物から逃げる生活をしていたら、まともな食事をとっていないはず。
「うめえー!」
「おいしい!」
案の定、涙を流し喜んで食べていた。無理もないわ。
そんな子供達を見て良かったと思うと同時に、こんな目に遭わせた魔物に憎しみがこみ上げてくる。
逃げ遅れて犠牲になった亜人は、何人いるのだろう? 絶対に許さない!
母さん達も同じ思いのようだ。顔は笑っていても、闘志を燃やしているのが分かる。
ヤル気満々だ。
腕力では男性には
これは、父さん達の出番はないかも……。
海彦の両親にはテーブルに座ってもらい、私が料理を取りに行こうとする前に、エイル母さん達が持ってきてくれた。
顔見せと挨拶をしたいのは、私達だけではなかったようだ。
それだけ海彦は勇者として感謝されている。
「米が食えるとは思わなかった……」
二人が食べてるのはお茶漬け。
肉とかもあるけど、まずは消化に良いものを食べてもらう。フルーツもいいわね。
次の食事にはご馳走を出そう。日本の美味い物なら、ほとんど作れるわ。
私は二人が食べてる間に、今のヘスペリスの近況と海彦の話をする。
エルフ語は分かるようで、私も日本語を少し喋れるから、お互いに理解できた。
「……そうでしたか、フローラさん。海彦はここに来て頑張ってたようですね」
「ええ、みんな助けられてます」
「……でも、たぶん私達は恨まれてますよね……」
「えっ!?」
「無理もないな……数十年間ほったらかしにして、親らしいことは何一つしていない。無事に育ってくれただけで、ありがたいと思わねば。弟の
玉三郎さんの言葉に、私は慌てて否定する。
「二人とも、ちょっと待ってください! 転移事故なら仕方ないじゃありませんか!? それに海彦は、ご両親のことを悪く言ったことは一度もありませんよ! どうしたんですか!?」
話を聞くと、海彦の態度があまりにも
確かに、折角両親に会えたのに積もる話もせずに、基地案内を私に任せている。
「今は魔物との決戦前なので、海彦も気が立っているのかもしれません。あとで聞いて見ますから、落ち込まないでください」
「いろいろありがとう、フローラさん。海彦は良い人に会えたようですね」
咲耶さんから礼を言われ、私は恐縮する。あと褒められて嬉しい。
お義母さんと呼ぶ日がくるのだろうか?
◇◆◇◆
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