第214話 再会

「それ、それ、それ、それ、それー!」


「おりゃあー、死ね――――!」


 水を得た魚のように、奥様軍団は矢を撃ちまくる。


 男の戦士達はどこにいった? ああ、船縁とられて戦う場所がないのね。


「一つ……二つ……三つ目! ……たくさん。矢を早く持ってきなさい、アナタ!」


「こっちもよ! 急いで!」


「……………………」


 嫁に急かされて、矢筒を渡すだけである。奥様達の射撃の腕前は凄かった。


 撃つのは早いし、一矢も外さないので男達より上である。


「アンギャア――――!」


「キャイン、キャイン!」


 魔物達は不意打ちをくらった上に、いいように撃たれていた。


 こっちの弓の射程は長く、左右から挟み撃ちされたら反撃のしようもない。


 そもそも武器の出来が違う。雑な魔物の弓とは違い、精度と威力がある。


 敵の盾は少なく、今回は亀甲防御テストゥドができないのは痛いな。


 奥様達の射術は、盾の隙間を正確に狙い撃ちし、ゴブリンとコボルドを仕留めていく。



 新型武器も威力を発揮していた。使っているのはフローラ達である。


 初めての実戦投入だったが、上手く動いてるようで俺はホッとする。


「なかなかねん!」


「流石はドワーフ製、何も問題ないな。これなら十分使えそうだ。もうすぐ片がつきそうだし、援軍は不要。しかしまだ前哨戦、本番はこれからだ!」


 兎族を追ってきた魔物の船は十数艘だけで、数は少なかったのだ。


 リザードマンの姿もない。


 恐らく偵察の先遣隊に過ぎず、本隊の数はかなりいるはずである。勝っても浮かれるわけにはいかない。


「エイ、エイ、オ――――!」


 奥様軍団の勝ち鬨が聞こえてくる。これぞ完勝。


 クナール船の上で動いてる魔物は一匹もおらず、湖に落ちて浮かんでるか、血を流して倒れていた。


「片付けてきなさい!」

「…………」


 出番のないまま、男の戦士達は敵の後始末を、奥さんに命令される。


 納得はしていないようだが、置いとくと邪魔になるし、水が汚くなるのでやるしかない。


 霧がなくなり、いままでのように捨てるわけにはいかなかった。



 奥様船団の方は漁船と筏に声をかけ、先導して港に向かってくる。


 壊れそうな筏には近寄って、兎族を移乗させていた。


 俺は城塞から下りて、ピーターさんと一緒に避難民を出迎えることにする。


「よかったですね、ピーターさん」


「ええ、海彦さん。同胞があれだけ生き残っていたのは嬉しい!」


 桟橋で話しながら、俺は緊張していた。いよいよ家族との対面。


 いざ会うとなると、何も考えられなかった。


 あれこれ悩んでいるうちに、潮満丸が横付けされ渡し板がかけられる。


 異界人の姿は兎族に隠れて、まだ見えない。


 ボートピープルさながら、船からあふれんばかりに人が乗っており、慌てずに順番に下りてくる。


 最初はみんな不安そうな顔で震えていたが、ピーターさんが前に出て、声をかけると安心したようだ。


「よかった、よかった」



 最後に日本人の男女の姿が見えた。しかし、どう見ても30代で若い。


 幼い頃に見た思い出のままだ。たもつ叔父さんの方が、かなり老けていた。


 やはり、ヘスペリスでは歳を取らないのかもしれない。


 上陸した二人に対し、俺がお辞儀をすると向こうも頭を下げた。


「君は日本人? 私は幸坂玉三郎。こっちは妻の咲耶さくや

「初めまして」


「……………………」


 俺は声が出ない。二人を見たまま固まってしまった。


 覚悟はしていたが、いざとなるとどう接していいか分からずにいる。


 何を言ったらいいのか迷ったまま。


「どうかしたのかい? 大丈夫?」


 心配されてしまい、深呼吸してから何とか声を絞り出す。


「……俺は幸坂海彦。たぶん、あんたらの息子だ」


「えっ!?」


「まさか!?」


 親父とお袋は目を開いて驚く。いきなり息子と言われても、信じられないだろう。


 日本での年月が経ちすぎていた。


「歳は二十二……いや、二年すぎたから二十四か。山彦と保叔父さんは元気でいると思う」


「ううううううううー!」


 お袋は俺の手を取り、泣きだしてしまう。これには参った……。

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