第213話 兎族を助けたい
フローラの言葉を聞いて、俺は一瞬耳を疑う。
「ふんぐる くとぅるう いあいあ はすたあ」
エルフ語だ。女神の
どうやら霧の結界だけでなく、全ての力を失ったらしい。俺は頭を切り替える。
「海彦、私の言ってること分かる?」
「ああ、なんとかな。俺の発音はいまいちだが、みんなの言葉は分かる。フローラにエルフ語を習っててよかったぜ」
「ええ」
心配そうな顔をしていたフローラが笑う。言葉が通じないのは大変だからな。
多少混乱はしたものの、各部族間でのやりとりも問題はなかった。
みんなそれぞれ亜人語を勉強していたし、ジェスチャーと単語だけでも意志は伝わる。
これくらいで戦に影響はない。
しかし、事態は一気に動き出す。
伝令の兎のお姉さんがやって来て、俺達は駆け足で司令所に駆け込む。
基地の中央に建てられたプレハブハウスだ。
司令所の中にはアルテミス湖の地図がテーブルに置かれ、移動式黒板もあり多数の写真が磁石で貼られている。
長机には数台の無線機が並べられ、それぞれ担当がついていた。
ついに、気球から魔物発見の知らせが届いたのだ。
『魔物発見! いやこれは…………!?』
「どうした!?」
『兎族の船団です。魔物に追われてます!』
「わかったー! すぐに救援をだす。そのまま監視を頼む、何かあったら知らせてくれ」
『了解!』
俺はすぐに無線担当に指示を出す。
「各部隊に連絡、救出に動ける船はすぐに発進! あとは『サンドウィッチ作戦』だ!」
「分かりました!」
ヘッドセッドをつけたオペレーターはうなずき、各方面に連絡する。
放送スピーカーからも大音量で状況が伝えられ、基地にいた戦士達は直ぐさま動き出す。
「よーし、いくぞー!」「おおおおおおー!」
「絶対に兎族は助ける!」「ああ!」
気合い十分、やる気十分。今更何も言うことはなく、作戦も決めてある。
ただ、
「…………あれ?」
フローラ達がいつの間にかいなくなっていたのだ。
さては、船で戦場に向かったな? 止める間もない。
敵を前にしたらひるむどころか、闘志を燃やす性格だ……女なのにねー。
助けたいという気持ちもあるだろう。
仕方ないので、俺は城塞にある高い見張り台に向かい、アルテミス湖を見る事にした。
大型双眼鏡があるので、戦場を一望できる。あとは気球からのラジオ中継を聞けばいい。
やばいようだったら、援軍を出すつもりだ。
「やっぱり味方の船は速いな、蒸気船は伊達じゃない。もう現場に到着しそうだ……て、なんで奥様軍団が乗ってるんじゃー!」
船の上には女性の姿が多数。
弓矢とボウ銃、そして新型の武器を持ち、アマゾネスを思わせる。
まだ来ていない族長の代わり、という意識があるのかもしれないが、無理に戦わなくても……どうもヘスペリスの女性は血の気が多い。
やがて正面に見慣れぬ船が見えた。その後方には小舟と筏に乗った兎族が多数。
「あれは!? 日本の漁船。間違いない、『潮満丸』だ!」
ついに無線を出していた船が現れる。それも帆掛け船に改造されていた。
やはり軽油が確保できなかったのだろう。無ければエンジンは動かない。
長年経って、船体がよく持ったなと言える。
さらに後方から魔物のクナール船が追い迫っていた。乗っているのは定番の、ゴブリンとコボルド。
今回、敵船にある盾の数は少ないようだ。重くなると船足が遅くなるからな。
追いかけながら矢をたくさん射かけてるが、兎族も固まって盾精霊を召喚して防いでいた。
ガンバレ!
もうすぐこっちの救援部隊がつく。魔物達は目先にとらわれて気づいていない。チャンスだ!
「私達は右!」
「あたしらは左!」
近づいた味方の船隊は二手に分かれ、兎族の船を見送り、魔物達を挟み撃ちにする。
だから、サンドイッチ作戦なのだ。誰にでも分かるネーミング。
魔物達が乗っている船は長蛇の列になってるので、これはいい的だ。
攻撃開始だ!
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