第212話 無線で会議をしたい
「では、今のとこ村の近くに魔物は出てないんですね?」
『うむ。見張り台からは発見できんかったし、オフロードバイクで調査に行った者の話では、いなかったそうじゃ』
『気球からの無線連絡も、特に異常なし』
「やはりココ……アルテミス湖に敵がきそうですね」
『うむ』
目の良い亜人が、魔物を見逃すわけもない。となれば一箇所に集結して襲ってくるだろう。
まだアルテミス湖周辺でも、発見はされてない。が、偵察部隊がいずれ見つけるはず。
急いで、
『第一陣は明日にはそっちに着く。儂らも急いで向かう』
「ええ、頼みます。それでは」
無線会議は終わった。あとは戦士達の到着を待つだけである。
ピーターさんと兎族には、テントをたくさん立ててもらう。場所はとっくに決めてある。
大人数がくるので寝る所は必要、体に悪いので野宿はさせない。野戦病院もかねる。
各村からの移住者達は、食料庫・武器庫からの物運び。これも大変な作業だ。
とにかく戦争は大事業である。
「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」
「おお、おめでとう! 結婚式にはいくぜ!」
「…………」
脂肪フラグを立てるのは止めろ。わざとやってねーか?
魔物が来ることは前々から分かっていたし、地獄の特訓をこなしてきたからこそ、誰もが自信をつけている。
あとは、やり合って勝つだけである。まず負けはしない。
そして一日が過ぎ、何事もないまま次の日を迎えた。これは嵐の前の静けさだろう。
アルザスと各村から戦士達が続々とやってくる。
近道の水路と蒸気船があれば来るのは早い。武器や防具の他に食料も運んできている。
アマラは船に米俵を積み上げてやってきた。ニュクス湖では二期作が可能なので、たくさん米が収穫できる。
「新米なのだ。みんなに食ってもらうのだ!」
「ありがとうなアマラ。これで力がでるだろう」
族長達はまだこないが、娘達は先にやってくる。そんでもって、奥様軍団も一緒に来ていた。
戦場に顔を出さないと気がすまないのだろうか?
本当なら女性と子供は村で待機の予定。今回の戦いは規模が違うので、命の保証はできない。
俺は恐る恐る、苦言を言う。
「あのー、エイルさん。村に帰ってくれませんか。これからココは、超危険になるんですけどー……」
「だからですよ、海彦さん。旦那達に調理は任せられません。ろくな物を作りませんからね。それでは戦に勝てません! ほっとくと着替えもしないし、とても臭くなります」
「そうそう! それと私達も戦うわ!」
「……わかりました。では、炊事と衛生面をお願いします」
奥様達の勢いには勝てなかった。やはり逆らえない。
まあ後方に下げておけば、大丈夫だろう。いざとなれば娘達と一緒に逃げてもらうだけだ。
俺は奥様達の案内をしてから、基地全体の見回りをする。ついでに戦士の激励だ。
……いつのまにか、フローラ達と集団になって歩いていた。なんでだ?
そこに、ホビットのロリエがやってくる。
「お兄ちゃん、お婆ちゃんが呼んでるの。一緒にきて」
「……わかった」
正直、意地悪魔女に会うのは気乗りはしない。が、戦の前なので、何か用があるだろうと思い、ロリエについて行った。
何をされるか分かったもんじゃないからな。正面に立ち問いかける。
「なんのようだ? 婆」
「……海彦、お別れじゃ。
「なにっ!?」
「お婆様!」
「お婆ちゃん!」
突然の別れの言葉に俺達は驚き、二の句が継げず固まってしまう。
ロリエは涙目になっていた。
「これは
「まてっ!」
「ヘスペリスとロリエは任せたぞ、最後の勇者よ。ひょひょひょひょひょひょひょひょ!」
薄気味悪い笑い声を上げて、婆は本当に消えてしまった。
音を立て地面に落ちたのは杖と黒ローブ。ロリエはそれらを拾い、抱きしめて泣いた。
すかさずフローラ達が慰める。
俺は目の前でいなくなっても、まだ信じられなかった。
いつも突然現れては消えていたので、またひょっこり現れるかと思ってしまう。
……だが、俺達の前に婆が姿を見せることはなかった。
「いきなりすぎるぞ。勝手なことばかり言いやがって……」
そして、俺達は新たな異変に気づくことになる……。
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