第211話 夏は暑い

 軍事演習が終わった後、俺は獣人村で過ごしてから、テミス湖で夏を迎えた。


 やはり海はいい、潮風に当たると心が落ち着く。


 仲間達も全員集合。日差しは強いものの、海に入れば涼しい。


「きゃははははは!」


「キュウ、キュウ!」

「ワン、ワン!」


 俺は高い監視台に座り、ビーチを眺めていた。久々にライフセイバーをやってる。


 やはり慣れた仕事をしてないと、心が落ち着かないものだ。


 もっとも海の監視と救助は人魚達がやってくれるので、俺は砂浜に目を配り、迷子の声かけをしている。


 泣いてる子供をあやすのは大変です!


 彦……海には大勢の家族連れが遊びにきていた。冬場以上に混んでいる。


 それでも日本ほどではなく、観光客は千人ほどしかいない。


 人で一杯にあふれる、芋洗い海水浴場になることはなかった。


 まだまだ場所に余裕があり、もめることもない。屋台と海の家は大繁盛。


 秋の祭がないので、交代でバカンスに着ているのだ。村での生活と戦闘訓練があるからね。


 みんな楽しそうに遊んでいて、笑い声が絶えない。


 今年もイルカの親子がやってきて、エサをもらい芸を見せては喜ばられてる……だから俺をボールにするなー!


 人気をもっていかれると、負けじと犬達とリーフも新たな芸をひろうする。


 お前ら一体どこで覚えた? ……誰かが教えたな。

 

 また、釣り・ビーチバレー・サーフィン・シュノーケリングと様々なことをやっていた。


 誰もが上手いから何もいいようがない。下手に張り合うと負ける……しくしく。


 泳げないドワーフはあまり海には入らず、ゴムボートや浮き輪を使っていた。


 ヒゲ面のおっさんが腰につけてると、かなりシュールだ。



「わー! 高い高い!」


「楽しいのー!」


「もっと飛ばすわよん!」


 フローラ達が遊んでいるのは、パラセーリング。


 ハイドラがモーターボートを飛ばし、パラシュートを引っ張っての凧揚たこあげ。


 落下傘のテストのつもりが、皆に大うけしてしまった。娯楽には目がない。


 ハンモックチェアにフローラとロリエは並んで座り、ロープを持って空中散歩を楽しんでいた。


「ハイドラも調子に乗って飛ばしてるなー、俺は絶対に乗らんぞ……ん?」


 一つだけ高く上がってないパラシュートがある。やや危ないように見える。


 双眼鏡でよく見ると、乗っていたのは雅とミシェル。


「うーん、船の加速が足りないのか? それとも体重がおも――――!」


 何かが飛んできて、俺の顔にへばりつく。


 フニャフニャしたそれを引き剥がすとタコで、思い切り墨をかけられた。


「ぐはっ!」


 一体どっから飛んできたー!? 某カートゲームじゃあるまいし、誰かが投げたのか!?

 海の七不思議である……。



 こうして海で遊んで夏を過ごし、日焼けになって肌がこんがりと焼けた……痛い。


 ロリエに診てもらい、薬をもらったのでかなり楽になる。


 海を去る前日には、みんなでバーベキューパーティー。俺は焼くのに忙しい。


 女達はガツガツと食って、直ぐになくなってしまう。食材がみるみる減っていく。


 遊びといっても体を動かすから運動だし、フルーツ農場でも働いているので、女達の体は鍛えられて引き締まっていた。


 俺もそれなりに強くなった気はする。亜人には及ばんけどね。


 英気を養うのはここまで。平和な日々も終わるだろう。


 俺は気持ちを切り替えて、アルテミス湖に戻った。


 初秋しょしゅう。北方で残暑は感じず、過ごしやすい日々が続く。


 ――そして秋の収穫を前にして、ついにその時がやって来る。


 誰もが異変に気づく、いや気づかない方がおかしい。


「霧の結界が消えた!」


「魔物がくるぞー!」


 俺は直ぐに城塞の上にかけ登り、四方を見渡してみると、もや一つ見当たらなかった。


 気球が緊急発進して、周辺の調査に向かう。アルザスの騎馬隊も、偵察に散らばっていった。


 作ったマニュアル通りに動いてくれるので、皆の対応は素早い。


 今族長達は村にいる。コッチと同じように、近隣の調査をしてるだろう。


 あとで、無線会談をする予定。


 ただオグマさんは喋らんから、リンダが代わりに報告してくれるはず。


 ヘスペリスの天変地異は始まったばかり、何が起きるかは分からない……。

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