第210話 軍事演習を見たい

「当たったわ!」


「これは連射できて、いいわねん!」


「面白いのだー!」


 俺達は射撃場にいた。量産された武器の試射と訓練である。ちなみに火縄銃ではない。


 武器があるからと言って、すぐに使いこなせるわけではなく、仕組みを覚えて何度も特訓する必要があった。


 発射音がやかましく迷惑なので、鉱山の中に射撃場がある。


 全員ヘッドホンをして、楽しそうに撃ちまくっていた。あいかわらず慣れるのは早い。


 シューティングターゲットは、魔物の写真を貼った板。


 憎々しい敵を見ると、闘志をかきたてられる。


 動かない的の他に機械で動いてる的もあり、当てるのは難しいが、女達は軽々と命中させていた。俺は下手だった……。


「おーほっほほほほほほ! 魔物は蜂の巣ですわ!」


「雅様……」


 やっぱり血の気が多い。ミシェルはなげくが、俺からすれば深窓の令嬢よりも頼もしくていい。


 雅も勇者と同じく、アルザスの旗頭なのだ。射撃場は村やアルザス王国にも作られる予定。


 こうして訓練しておけば、誰でも扱えるようになるだろう。



 そして、もう一つ。


「どうだ、使えそうか? シレーヌ」


「長くて持つのが大変ですけど、水の中なら大丈夫です! お魚さんを的に練習します」


「アマラも一緒にやるのだ。次こそは、りざどまんを仕留めてみせる!」


「期待してる。完成した分は、テレサさんに渡してくれ」


「はいですー!」


 工場のおかげで、武器の生産も順調でなんの心配もない。みんな勤勉で真面目だから。


 俺達はドワーフ村を後にして、他の各村を巡る。


 合同軍事演習を行う予定なので、視察と各村の訓練状況をみながら、日程の調整をするのが俺の役目だ。


 細かい部分は族長達に任せるが、大まかな部隊配置を決めておかねばならなかった。


 でないと現場が混乱して、みんなの力は発揮できない。


 その場の思いつきで大軍団を動かせるわけがなく、頭を使い知恵を絞る必要がある。


「ココにも部隊を配置すべきよ。ボウ銃隊が欲しいとこね」


「それだと、ココが薄くなるだわさ」


「では、もう少し防衛範囲を狭めましょう」


 兵棋演習。俺はフローラ達と一緒に作戦を練っていた。


 何事も一人では限界があるので、みんなに協力を頼んでいた。


 勉強嫌いのアマラも、こればかりは真剣になる。仲間の命がかかってくるからな。


 こうして作戦計画書が出来上がり、後は印刷して各村に配られた。


 戦士一人一人に読んでもらい、意見を述べてもらうのだ。誰でも言える。


 とりまとめるのは族長で、内容を判断して問題点を修正するのだ。


 まあ、他にもやることが一杯あるので、族長達は大変だ。アタワルパさんはノイローゼが悪化したらしい……すみません。



 そして梅雨が明ける季節、アルテミス湖で大規模な模擬戦が行われる。


「撃て、撃てー!」


「突っ込めー! 突撃ー!」


「精霊防御!」


 地上・水上で激しい戦いが繰り広げられていた。実戦さながらである。


 木剣に竹刀を使い、先端が布の矢を使っているものの怪我人はでる。


 負傷者を回収するのは兎族と人魚族。治療はホビット達だ。


 俺は族長達と一緒に、完成した城塞の上で見学。戦士達全体の動きを見ていた。


 戦場を俯瞰ふかんすることで、問題点を見つけ出すのだ。


 あと部隊長に経験を積ませる目的もあるので、エリック王と族長達は不参加。


「ぬー、見てるだけだとイライラするのう。歯がゆい!」

「うむ!」


 椅子に座って貧乏ゆすりをしたり、体をせわしなく動かしていた。


 多少不満はあるようだったが、本番には前線に出るので暴れたいのを我慢する。


 つうか、あんたらが出たら演習が滅茶苦茶になるわ!


『はーい、戦士の皆様、前半戦終了でーす! 午後から後半戦を行います。昼食を取って休んでください』


「ふー、やっと休めるな」


 ラジオから雅の声が聞こえてくる。休憩の合図だ。


 上空には気球が飛んでおり、写真を撮りながら移動していた。


 あとで現像して部隊の動きを検証する。ビデオカメラも貸したので、十分役に立つだろう。


 模擬戦の次の日は反省会。激しい訓練だったので、治療と骨休みも兼ねている。


 二週間、合同軍事演習は続く。


 部隊移動して陣形を組んだり、射撃訓練、一対一の武闘会と様々なことをやった。


 ぎこちなかった動きも、二回目の模擬戦ではかなり良くなる。


 最終日は、部族の親睦をかねた大宴会。気兼ねなく酒を飲める機会も、これで最後かもしれない。


 なので大いに盛り上がった。戦士達は村に帰り、戦闘訓練を続けることになる。


 そして俺は……

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