第209話 工場見学をしたい
酔いが抜けた次の日、俺達はある場所に見学にきていた。
「これは、なかなかいけるのだー! もう一杯!」
「うんうん、美味しいです!」
食いしん坊のアマラとシレーヌが食べていたのは、ラーメンとチャーハン。
ただ、乾燥していた物をお湯で戻したものである。
ここはアルザスの食料生産工場。俺達はフリーズドライで作られた食べ物を試食していた。
これも魔物との戦いに備えてのことだ。腹が減っては戦に勝てぬ。
「十分食えるな、腐らないのはいい」
「冷凍真空装置……作ったのはドワーフだけど、やっぱり地球の機械は凄いわ!」
「フルーツも保存できるわん!」
雅とミシェルの案内で工場見学にきたものの、ろくすっぽ説明も聞かずに、女達は食べるのに夢中になっていた。
まあ、味がいいからしゃーない。
他にも缶詰め・乾麺・干し肉が作られ、長期保存食がたくさん作られていた。
米や麦はあくまで主食、おかずがなければ力は出ない。栄養素が不足するからだ。
あと、例によって乾燥作業には精霊さんが頑張っています。お疲れ様です。
作られた糧食の半分はアルテミス湖に送られるが、残りはアルザスと各村に蓄えられることになる。
「海彦様、どれだけあればいいでしょうか?」
「ヘスペリスにいる全員が、数年食えるだけの量が欲しいな。すぐには無理な話だけど、
そう言ったとたん、ミシェルと雅は顔を
「流石だ、海彦! 不作続きの時もあるし、食えなくなったら大変だ」
「ええ、やっぱり勇者様ですわ。常に私達のことを考えてくださる。海彦様、やっぱり王様になりませんか? 王妃は私」
「ゴラアー! 雅ー!」
「海彦の嫁はアマラなのだー!」
いつものように修羅場となってしまう。
最初の頃は女達に挟まれてオタオタしていたが、もう見飽きた。
断っておくが、俺は誰とも結婚する気はありません……一応。
それでも、日本で暮らしていたときに比べれば、孤独ではないので楽しくもある。
バイト三昧のせいで、友人を作る機会などなかったからな。飲み会も断ってました。
ヘスペリスでの生活が長くなったせいで、俺はココに愛着がわいてしまった。
日本に帰るときに未練が残りそうでやばい……今は考えないようにしている。まずは戦争に勝つことだ。
アルザスで数日過ごした後、俺達はドワーフ村へと向かう。
食料生産に問題はなく、次は武器を見に行くのだ。こっちも工場見学だ。
徒歩では数日かかった旅路も、今や列車に乗って外の景色を眺めてるうちに着いてしまう。
駅では大勢のドワーフ達が出迎えてくれた。ここでも大歓迎される。
「海彦殿、よう参られた」
「チャールズさん、お世話になります」
俺達は握手を交わす。娘のドリスは見ようともせず、母親のところへ行ってしまった。
相手にされない男親はかなしい。
まずは温泉に浸かり旅の疲れを癒やす。体は疲れていないが、心が安まる。
あとここでも宴会となった。久しぶりに村に来たのもあるが、勇者の俺を歓待したいようだ。
感謝の気持ちを示すのと、戦の士気を高めるためでもある。
こりゃー、他の村でも歓迎会三昧になるな……断るわけにもいかんから、ロリエから薬をもらっておこう。
しかしまあドワーフは酒に強く、浴びるほど飲む。
今はウイスキーのソーダ割り――ハイボールが大人気である。
酒のちゃんぽん当たり前。ワインと果実酒だけだったのが、ビール・ウイスキー・焼酎と作られていき、ないのは日本酒だけである。
百科事典で教えたので作る技術も能力もあるが、酒米を7割も削る必要があった。
米を大量に精米するので、かなりもったいない。はっきり言って日本酒は贅沢品。
獣人村では食用米の生産が優先されており、酒には使えない。食料の方が大事。
チャールズさんは日本酒の試作品を作ろうとしたところ、奥さんから大目玉をくらったそうだ。
「
「…………」
それでも男達は飲みたい衝動を抑えられないようで、奥様達に隠れて密造酒を造ってるらしい……。
バレないことを祈る。
一日が過ぎて、俺は大きな工場にいた。
巨大な物を見ながら、チャールズさんにも最終作戦を話すと、
「かまわんぞい。儂もドリスのためなら鬼になる。子供の命が第一じゃ!」
「……分かりました。でも実行するには、まだ問題がありますね。アレが確保できてない……」
「
「危険ですよ!」
「なーに、いざとなれば盾精霊とパラシュートを使って身を守る。そう簡単に死にはせんよ。それと戦をするからには、皆覚悟を決めとる。搭乗志願者は一杯いると思うぞい」
「…………」
俺は言葉を失う。
アルザス王のエリックさんもそうだったが、チャールズさんも淡々と語って悲壮感はない。
やはり死生観の違いである。命が軽い。それでも俺は、誰一人死んでほしくはなかった……。
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