第208話 王様と相談したい
「勇者さまー!」
「リーフ!」
アルザス港に着くなり、大勢の人から歓迎を受ける。これは嬉しい。
もっとも人気があるのは王女たる雅で、その次はリーフ。
俺は挨拶されたら終わり。アイドルではないので、ファンに囲まれたりはしない。
その代わり、フローラ達には常に囲まれているが……。
「キュウ、キュウ」
「やっぱり、でけえー!」
「すげえー!」
リーフの近くには子供達が見物にワラワラ集まってきて、餌やりをしようと順番待ちをしている。
アルテミス湖でしか見れないので、珍しいのだろう。動物園で珍獣を見るようなものだ。
首長竜は地球にも、いないけどね!
子供らの好意を無駄にできないので、餌やりを俺は止めない。
あといろいろと用事があるので、リーフにあまり構ってもいられず、各村での世話役に任せることにする。
……また太るな。
「それでは海彦様、城に参りましょう」
「ああ、エリックさんに挨拶しないとな」
こうして蒸気自動車を使って、宮殿まで移動する。
最初に来た時とは違い、女達はもめることはなく大きな荷台に全員乗った。
「おお海彦殿、よくぞこられた。歓迎するぞい」
「エリックさん、お世話になります」
着くなり王様みずから出迎えてくれた。
本当は偉い人なのだが、フレンドリーに話しかけてくるので、俺も気安く接してしまう。
アルザスには厳しい身分制度はなく、亜人達と対等に付き合っていた。
族長達と同じで、あくまでも人族の代表。国民の声を直接聞く名君でもある。
将軍のアンドレさんも貴族ではあるが、威張ったりはしないので、騎士達からの信頼は厚かった。
ただ娘のミシェルのことで、俺に突っかかってくるのは止めてくれー!
手を出す気はありません……そう言っても反発されるから手に負えない。
そして夜には戦の祝勝会をかねた、俺達の歓迎会が開かれることになる。
宮殿の庭園が一般開放されて、招待客の他に抽選で選ばれた人達が城に入れた。
レンガ屏の外にも会場が作られたので、国をあげてのパーティだ。
昔の俺だったら
魔物の大侵攻がある以上、いつ果てるとも知れないのだから……平和な日本とは違う。
「おっ! なかなか似合ってるじゃないか、ふたりとも」
「これぞ、いっちょうらなのだー!」
「服は嫌いですけど、海彦さんが褒めてくれるなら嬉しいです!」
ドレスに着替えてきた女達に俺は声をかける。
この日のために用意していたオーダーメイドで、フローラが中心となって作ったらしい。
みんな華やかに
俺は見てて照れくさい。もともと全員美人なので、かなり割り増しに見える。
褒めるのは忘れなかったが……
「あははははははははは! かんぱーい!」
「食って、食って、食いまくるのだー!」
これで行儀が良ければパーティを彩る花で済むのだが、そんなことはありえない。
女達は羽目を外して暴走する。
酒を飲みまくり、大口を開けて料理を食べるので品がなかった。
さらには宮殿の外に飛び出して、街の人達とも酒を酌み交わす。
「おー、姉ちゃんいけるなー」
「まだまだ飲めるのじゃ!」
誰とでも仲良くできるのは、ある種の才能だ。酒の勢いは凄いな。
雅とフローラ達はお高くとまったりしないからこそ、みんなに好かれていた。
ただ、酔いが回ると絡んでくる酒乱。
「そして……俺は酔い潰れた女達を介抱するのが仕事なのか?」
三度目にもなると、いい加減呆れてくる。とはいえ放置するわけにもいかないので、担いで運ぶしかなかった。
そんでもって、雅には頭をぶったたかれる。理不尽だー!
宴の次の日に、俺はエリックさんと二人だけで話す。重大なことなので余人を交えない。
一通り話し終えると、
「かまわんぞい」
「えー! でもこれはかなりヤバイ作戦なんですよ!?」
あっさりと了承されて、俺の方が慌ててしまう。
心の中では止めて欲しいと思っているからだ。
「海彦殿の予想は当たるやもしれん。となれば、今のうちから準備しておくに越したことはない。儂は死んでも構わんが、娘の雅には生き残って欲しいからのう。これは親のエゴじゃ、恐らく族長達も賛成するじゃろうて……何を犠牲にしてもな」
「そうですか……」
子供を思う気持ちは少し分かる。俺は覚悟するしかなかった……。
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