第205話 逃しはしない!

 ゴブリン兵のほとんどは船と一緒に焼けてるが、何十匹かは湖に飛び込んで、泳いで逃げていた。


 獣人達が追いかけて、かぎ爪を振るう――ガキン! と音が鳴る。


「ぬっ!?」


「ヤーシッシッ!」


 ニナンさんのかぎ爪を防いだのは、リザードマン。武器は三叉の矛トリアイナ


 戦場の後方にいて待機していたのだが、ここにきてゴブリン達を助け、丸太のいかだに引き上げ始める。


 いかだは水に浸かっているので、火炎ビン攻撃は効かないだろう。


 蜥蜴男は獣人と激しく打ち合い、互角の勝負をしていた。


「強い! どうやらリザードマンは、俺達の力を探りにきたらしいな。帰って本隊に伝える気だろう。今回は威力偵察・大物見だ。ゴブリンとコボルドは捨て石か……」


「汚い手ね! むかつくわ!」


 フローラは憤る。


 まあ、いくさは何でもありだが、味方を犠牲にするのが気にくわないのだろう。


 殿しんがりのリザードマンが上手く防いでる間に、ゴブリン達は遠くに行ってしまう。


 もう蒸気船でも追いつけない距離だ。


「シッシッシッ!」


 これを見てリザードマン達も戦うのを止め、湖に飛び込みバラバラに逃げ去ってしまう。


 泳ぎはかなり早く、人魚に匹敵するだろう。これでは追撃はできない。


「くそっ! 仕留めそこねたー!」


「滅茶苦茶悔しいのだ――!」


 敵を取り逃がした獣人達は悔しがっていた。


 ロビンさんが敗走している魔物軍団を船で追いかけてるが、矢も届きそうもなかった。



「残念だわん……」


「いーや、まだだ、まだ終わらんよ。そう簡単に逃がす気はない! 早く起きろ、寝ぼすけ! もうとっくに春だぞ!」


 俺の言葉が届いたわけではない。が、アルテミス湖に異変が起きる。


 敗走中の魔物軍団の前方に大きな泡が立ち、大きな黒い影が浮かび上がってくる。


「ギャッギャツ!?」



「キュ――――――――イ!」



 波しぶきを立てて現れたのは、聖獣リーフ。ついに冬眠から目を覚ます。


 実は俺はシレーヌに、起こしてくれと頼んでいたのだ。


「了解ですー!」と言ってアルテミス湖の底まで行ってくれた。


 寝起きで機嫌が悪いのか、首長竜はすぐに暴れ始める。


 魔物が敵なのは分かっていて、手当たり次第に丸太のイカダを壊して吹っ飛ばす。


 八メートルの巨体に敵うものはいない。


 ゴブリン達は弓矢で反撃を試みるが、全て矢は弾かれた。


「それこそ無駄・ムダ・むだぁー! リーフの硬い皮膚は両親ゆずり、ボウ銃すら効かんぞ。あと魔法もな。倒したいなら大砲でも持ってこいやー!」


「わああああああああああー!」


 リーフの登場で子供らは大歓声を上げる。ヘスペリスでの人気は高い。


 やはり圧倒的なパワーには誰もが惹かれるものだ。味方で良かった。


 主力船隊は追いついたが、近寄ると巻き添えをくらうので、下手に手を出さずにリーフの戦いを見守っている。


 陸戦部隊も蒸気自動車でかけつけ、岸辺から観戦している。

 全軍集まっての応援、勝負は決まった。


「トーカゲー!」


 イカダが全て破壊されるとリザードマンは反抗をあきらめ、溺れてるゴブリンを見捨て、尻尾を巻いて北へ逃げてしまう。


 俺は思わず舌打ちする。


「ちっ! バラバラに逃げやがった。泳ぎは早いし川に入り込まれたら、これ以上は追えんな。深追いは危険だ」


「でも、勝ったわ!」


「やったわん! 大勝利よん!」


「キューイ!」


「ウオオオオオオオオオー!」


 リーフの鳴き声に合わせ、勝ち鬨が上がる。


 リザードマンを取り逃がし不満は残るが、犠牲者が出なかったのは幸い。


 あまり欲張っても、いいことはないからな。これで満足しよう。


 あとは戻って、勝利のうたげとなる。祭りの再開だ!


「うおおおおおー! 忙しいー!」

「キュウ、キュウ!」


 夜祭よまつりは予定になかったが、魔法使いが光精霊を召喚し、白熱球もたくさん使って会場をライトアップする。


 おかげで近辺は夜の繁華街のように明るくなった。予備の蓄えを出して飲み食いはタダ。


 俺はフローラや奥様軍団と料理を作ることになる。


「うめえー!」


「おかわり!」


 みんな食う量が多いので大変だ。子供らもガツガツと食っている。大きくなれよ。


 リーフにも餌をやると、喜んで食べていた。


 しかし、見る度に体がでかくなってる気がする……お前は大きくなるな。


 俺はリーフと一緒に勝利の立役者として称えられた。


 作戦を立てただけで、なにもしてないんだけどねー……。

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