第204話 敵船を燃やしたい

「いつもながら、海彦の作戦はえげつないわね」


「ゾクゾクするわん! 魔物がやられる様を見るのはエクスタシー!」


「だから、身もだえすんな……」


 フローラとハイドラは興奮している。これから起きることを知っているからだ。



 獣人達はある物を手に取って、火をつける。


「そりゃー! くらえー!」


 魔物の船に投げ込まれたのは、火炎ビン。中には例によってアルコールが入っている。


 瓶が割れると火が広まり、船が燃えていく。


 火炎ビンを作るのは簡単だったが、アルザスのガラス職人を説得するのが大変だった。


「割れやすいビンを作れだぁ? 勇者の頼みでもそれはやれん! 割れないガラスが俺達の自慢だ!」


「いや、それだと武器にならないんですよ。何とかお願いします」


 俺は頭を下げ、謙虚に誠実に丁寧に説明して頼み込むと、職人達はしぶしぶ作ってくれた。


 ガラスを薄くし、あえて不純物を混ぜたりして、見習い職人にやらせたのだ。


 こうして割れる・・・ガラス瓶ができた。


 ボトル型とフラスコ型があり、投げやすい形にしてある。



 獣人達は小舟に積んであった火炎ビンを、次々と投げつける。


「アギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!」


 漁網に絡まって動けないゴブリン達は大慌て。こうなると盾も邪魔になる。


 火を消すことも、逃げることもできない。


「これは、将棋でいうところの雪隠詰せっちんづめだ。守りを固めた穴熊囲いでも、絶対に勝てるわけではない。何せ逃げ場がないからな」


「なるほどねん」


「そして、父さんがトドメを刺すわ」


 そう、ロビンさんが率いる主力船隊が近づいており、獣人ボード部隊は離れていく。


 火炎ビン投てきの役目は終わったので交代である。


「よーし皆の衆、撃つのじゃ!」

「おう!」


 矢の先端は燃えていた。火矢である。


 火矢は空を飛んで敵船に突き刺さる。火と火とが合わさって炎と化す。


 クナール船は大炎上。ゴブリン達はただ焼かれていく。


「うわぢゃ~っ!!」


 燃えさかる音と魔物の悲鳴がやかましい。


 何とか網を抜け出して湖に飛び込んだゴブリンもいたが、アマラと獣人達が見逃すわけもなく、かぎ爪に切り裂かれていた。


 例によって、樽を飛び回るぴょんぴょん攻撃だ。


「やたら強い獣人が一人いるな……あーあれは、確かニナンさんだったな、次期族長の。流石にいい動きだ」


 あとで聞いたところ、楽しみにしていた息子さんの試合が開始直前で中止になり、ブチ切れたそうだ。


 他のみんなも、魔物のせいで花見を止められ頭にきていた。


 祭りの邪魔をされた怒りのパワーはすごい。



「父ちゃんつえー!」


「いや俺の父さんの方が、つえーぞ!」


「きゃ、きゃ、きゃ!」


「えっ…………」


 いつのまにか城塞に子供達が来ていた。連れてきたのは奥様軍団。


 フローラの母親であるエイルさんが話しかけてくる。


「すみません海彦さん。戦況をラジオで聞いて、もう安全だと思い見学にきてしまいました。子供らにも、戦いを見せておきたいので」


「分かりました。でも気をつけて下さいね…………あーコラコラ! 危ないから胸壁に近づくなって! 落ちるぞー!」


 子供らは、はしゃいでそこら中を駆け回る。困ったものだ。


 まあ、転落防止ネットはあるので大丈夫だと思う。


 しかし、子供にエグい戦場を見せるのはどうかと思うが、そこは世界観の違いだろう。


 ヘスペリスは平和な日本とは違うのだから……生死をかけた戦いが常にある。


 幼いうちから、悲惨な現実を見せて慣れさせておけば、あとでショックを受けることはない。


 ただ、好戦的になるのが玉にキズ。



『おーっほほほほほ! 魔物は消毒ですわ!』


『雅様、それはちょっと……』


「…………」


 ラジオから雅の声が聞こえてくる。


 気球に乗り無線からラジオ中継して、戦況をみんなに伝えていた。


 味方が優勢になると興奮して、プロレスの実況アナウンサーのようになってしまう。


 お付きのミシェルは頭を抱えてる。王女様が過激で品のない言葉を使うからだ。


 放送禁止用語がバリバリでてきます!


 燃えさかる魔物の船を見て、けりが付いたと思った……が、まだ終わってはいなかった。

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