第203話 罠にはめたい

「昔、ある国にマジノ線という要塞群があったんだが、あっさりソコを迂回されて森を抜けられ、戦に負けた。堅固な陣地に向かって、馬鹿正直に突っ込んでくる敵はいないよなー。いくらアホでも避けるわ」


「ええ、だから海彦はその対策をしてた。アランおじさんに任せておけば大丈夫よ」


「パパは強いわよん!」


 そう、森にはダークエルフの別動隊が待ち構えているのだ。


 森の中では最強の亜人。姪と娘は族長のアランさんを信頼している。


 ゴブリンとコボルドは周りを警戒しながら、行軍していた。


 深い森は暗くて視界が悪く、魔物達の歩みは遅くなり、草木も邪魔で部隊はまばらになるしかなかった。


 魔物にとっては不利な態勢であるが、まだアランさんは動かない。


 位置を悟られないように、ジッと息を潜めてチャンスをうかがっている。



 しばらくすると、


「ギャアー!」

「イヌ!?」


 悲鳴を上げたゴブリンが、ロープで逆さ吊りになっていた。くくり罠だ!


 これを皮切りに、魔物達は次々と罠にかかっていく。森の一部はトラップ・ゾーンになっていたのだ。


 罠の道具を作ったのはドワーフ、仕掛けをしたのはダークエルフ達である。


 落とし穴・漁網・トラバサミと何でもありで、蒸気ウインチのおかげで、大がかりな罠も仕掛けることが出来た。


 アランさんは縄を切って、罠を作動させる。


「それっ!」


「オゴッ!」


 尖った大きな丸太が飛んできて、ゴブリンの体に突き刺さり、他の魔物も巻き込んで吹っ飛ばしてしまう。


 他のダークエルフ達も次々と罠を動かす。盾精霊を出す暇も与えない。


 森に入った魔物達は、ただやられるだけで大混乱。


 どこに罠があるのか分からず、ドツボにはまってしまう。



「よーし、矢を撃ちまくれ! 外すなよ!」


「ウッス!」


 ここでアランさんは総攻撃にでる。魔物に向かって、矢が上から降り注ぐ。


 そう、ダークエルフ達は木の上にいたのだ。森人の本領発揮である。


 魔物達は頭上をとられ、樹木の枝や葉が邪魔で相手の姿すら見つけられず、罠にもやられてるので反撃すらできない。


「アヴァヴァ――――!」


 矢を受けたコボルドは、なすすべもなく断末魔の悲鳴を上げる。


 ダークエルフが使っている武器はボウ銃と、滑車をつけた複合弓コンパウンドボウであった。


 軍用弓を作ったのもドワーフ。弓を引くのは楽になり、威力も普通の弓より増している。


 これにダークエルフの神業が加われば、正に鬼に金棒。一撃で急所を貫いていた。


「ざまあみやがれ!」


「キャイン、キャイン!」


 魔物歩兵団は壊滅状態。うのていで、森から逃げだすしかなかった。



 それでも前線陣地に近づくことはできた。


 もっとも、軍隊として戦える状態ではなく、待ち構えていたアルザス騎士団の餌食となる。


「やれやれ、ようやく出番が回ってきたと思ったら、やってきたのは半死半生の魔物だけか。まあいい、一匹残らず片付けてやる! 全軍突撃!」


「イエッサー!」


 凶暴馬が一斉に駆けだし、ゴブリンとコボルドは騎兵の槍に貫かれていった。


 将軍のアンドレさんは、二本の日本刀を持ち魔物を切り捨てていく。


 騎士達は、あっと言う間に残敵を倒していった。


「どうやら、終わりのようじゃのう。もう少し暴れたかったが……」


「うむ」


 騎士団の後方には大剣と戦斧をもった、オークとドワーフ達が控えていた。


 投石機から離れ、武器を持って駆けつけていたのである。戦い足らず、かなり残念そうだった。


 地上戦は完全に勝負がついた。動いてる魔物はおらず、残るは湖の戦いだ。

 


「よしっ、網をかぶせてやれ!」


「おうっ!」


 動きを止めたクナール船に対し、なぜか獣人達は攻撃はせず、亀甲防御のゴブリン達に網を被せていく。


「ンギャ!?」


 何の意味もないように見えるが、これで魔物達は完全に身動きができなくなる。


 ……俺の作戦は、ここからが本番だ。

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