第202話 思いきり挑発してやりたい

 さて、アルテミス湖の方で動きがあった。


 アタワルパさん率いる、獣人ボート部隊が接近していく。


 船のゴブリン達は、盾の隙間から様子をうかがい何もしてこない。明らかにこちらを警戒している。


 弓矢を持っているはずだが、反撃もせず防御態勢のままである。


「……手堅い。考えなしに攻撃してくると思ったけど、ドワーフ村で遭った奴らとは違う。こう守りをガチガチに固められたら、獣人達のかぎ爪も防がれるな」


「まるで、私達の戦いを見てきたかのようね。ボウ銃の威力も分かってるようだし」


「生き残りがいて他の魔物に伝えたか? あるいは邪神の千里眼……考えてもしゃーないか」


「そうね。それに、海彦の新たな作戦は知らないのだから……」



 獣人達も不用意には攻撃をしかけない。


 盾が邪魔でダメージは与えられないし、下手に手を出せば反撃をくらうことは分かっている。


 そこで、間合いを取って大声で挑発を始めた。


「おらー! 玉なしのゴブリン野郎! 隠れてないで戦いやがれ!」


「守るしか脳がないのか? ヘタレ魔物め!」


「Hey、かかってきなのだ!」


 もっとも、魔物にこっちの言葉は通じてないようだ。馬の耳に念仏。


 怒った様子は見られず守りを固めたまま、こっちの本隊に向けて船をひたすら進めていた。


 白兵戦狙いが徹底している。命令が行き届いているのだろう。


 挑発の効果がなくても、アマラ達は悪口を言いまくる。これは目をそらすための陽動作戦なのだ。


「そろそろだな?」

「ええ」


 ガツッ! という音が次々と鳴る。


「ンギャ?」


 ゴブリンが乗っているクナール船に、水中から何かが投げ込まれていた。


 放り込まれた物は、忍者フック――かぎ縄。


 鉄製で釣り針のように返しがついてあり、木造船の手すりに引っかかって食い込み、もう外れない。


 フックはかなり頑丈なので、壊すのも難しい。


 ここで忍者なら縄を使って船に乗り込むとこだが、俺の作戦は違う。



「ギャー! ギャー! ギャ――――!」


 しばらくすると、ゴブリンどもが慌てて騒ぎだす。


 奴らの船が進まなくなったのだ。


「うふふふふふ」


「おほほほほほ」


 やったのはテレサさんと人魚達である。水面に顔を出して笑っていた。


 セイレーンのように歌を歌って、魔物を惑わしたわけではない。


 かぎ縄の先には重いいかりが付いており、これで船が動けなくなったのだ。


 重しをつけられては進めない。また船同士も連結させている。これぞ連環の計。


「ギャッ、ギャッ!」


 ゴブリンは必死でフックを外そうとするが、ビクともしなかった。


 敵船が完全に動けなくなったのを見はからい、アタワルパさん率いる獣人達が襲いかかる。


「皆の者、皆殺しでござる!」


「おうっ!」



 さて、陸地に目を戻すと、


「やっぱり、前線突破はあきらめたか。魔物は賢いな」


「そのまま、鉄球をくらって全滅すればよかったのにー!」


「そうねん」


 防御態勢をとったものの、十数匹の魔物が犠牲になったところで、またもや後退していた。


 やはり投石機の威力は絶大だ。ショットガンをまともに喰らうようなものである。


 ただ進軍を止めたわけではなく、あきらめは悪いようだ。


 さらに大きく東に移動して、森を通って攻めてくるようだった。


 投石機の射程からは外れ、魔物達の動きは見えなくなる。もっとも、空からは丸見え。


 俺は気球にいるリンダと連絡をとる。


「リンダ、奴らの様子はどうだ?」


『ゆっくりと歩いて、森を進軍してるだわさ。先頭のゴブリン部隊は壱号機の下あたりにいるよ。後をつけていくわ』


「そうか、なにか動きがあったら知らせてくれ」


『あいよ』


 気球の位置を見れば、魔物がどこにいるかは丸わかり。双眼鏡はあるし、亜人の目は良いので見逃すことはない。


 魔物は気球を見上げて恨めしそうにしているが、弓矢を撃っても届く距離ではなかった。


 投石機から逃げ出すのも想定済み。いくさは次の段階に入る……。

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